05後
ツナに連れられて2階に上がると、フゥ太くんが飛びついてきた。部屋で暴れ回っているランボくんを、ツナが叱っていた。
「なまえ姉ー! 風邪はもう平気なの?」
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「ううん、治ってよかったよー」
そのやり取りを聞いたディーノさんが、驚いたみたいな目でこっちを見た。
「……え? なまえ、風邪引いてたのか?」
「…1週間くらい前の話ですよ」
「あれ? ディーノ兄、知らなかったの?」
「ランボさんお見舞い行ったもんね!」
ランボくんが胸を張った。
ディーノさんと目が合う。
「何で連絡…っ」
ディーノさんは言いかけて、口をつぐんだ。その顔には「そう言えば1週間前って……あわわわ」と書いてある。分かりやすい人だ。
「…風邪なんて、連絡するほどのことじゃないですよ」
そう言うと、ディーノさんは何か言いたげに口を開け閉めした。結局、何も言わないことにしたのか、ぷいと顔を逸らされた。
ツナが飲み物を取りに下に行ってしまった。とりあえず床に座った私たちを見て、リボーンくんが口を開く。
「ところで、なまえは好きな奴とかいんのか?」
「え?」
「!?」
突然の質問に面食らう。何故かディーノさんが反応し、足ををベッドにぶつけていた。
何で今それを聞くの? ……ていうか、リボーンくんは知ってるんじゃ…。
「えっと、」
「いるよな?」
「まあ…いるけど」
「!!」
「わあ、誰? 誰?」
ディーノさんが驚愕の表情を浮かべ、壁に頭をぶつけた。
……なんか、今日のディーノさんはおかしい。ドジだ。いやいつもドジだけど、いつもよりドジな気がする。
フゥ太くんがキラキラとした目で私を見てきた。
「気になるー」
「あはは、内緒だよ」
「えー……あ! そうだ! ランキング…」
「しちゃダメだからね」
念を押すと、フゥ太くんが頬を膨らませた。今この場でされたら、ただの羞恥プレイになってしまう。
「じゃあ、どんな人なの?」
「んー…、優しい人かな」
「へー!」
イーピンちゃんが楽しそうに何か言っている。よく分からないけど、どこの国でも女の子は恋バナが好きらしい。そして何故か部屋の隅でディーノさんが沈んでいた。話しかけようとすると、リボーンくんに止められた。
「ほっとけ」
「え…」
「それより、なまえは優しい奴が好きなんだよな?」
「う、うん」
「じゃあ、自分のエゴで、好きな女を傷付ける男をどう思う?」
「……ん?」
「リボーン!?」
ディーノさんが慌てたようにリボーンくんを咎めたが、リボーンくんは全く気にしていない。この慌てようは…………ディーノさんの実話ということだろうか。
「えっと、エゴって…?」
「女の気持ちも考えてやらねーで、自分本位な考えで女にとって1番いいと思った行動をしたんだぞ」
「…どんな?」
「一方的に別れを告げて去ってったんだ」
「うわあ」
ディーノさん、他の人にもそんなことしてるんだ……。
「最低だろ?」
「最低だね」
「女の敵だな」
「…敵だね」
「死んだほうがいいよな?」
「いや…そこまでは…」
というか、どんどん落ち込んでいくディーノさんが可哀想すぎる。そろそろフォローしてあげないと。
「その男の人は酷いけど……でも私は、その女の人は幸せだと思うよ?」
ディーノさんが顔を上げた。リボーンくんが怪訝な顔をする。
「何でだ?」
「気持ちを考えないっていうのはどうかと思うけど…、少なくともそれは女の人を想っての行動なんでしょう?」
「……そうだな」
「それがその人の優しさなら、……そんな風に愛してもらえるって、きっと凄く幸せなんじゃないかなあ…」
ぽかんとした表情で見られて、自分の言ったことを思い返してみた。……………わあ。
「でっ、でももちろん近くにいてくれる方が嬉しいと思うけどね!?」
慌てて否定するように手を振ると、リボーンくんがニヤリと笑った。
「イイ女だな、なまえは」
「あ、ありがとう」
「やっぱりオレの愛人に…」
「リボーン!!」
ディーノさんが勢いよく立ち上がった。そして、コードに足を引っ掛けてバランスを崩した。
まっすぐ、私に向かって倒れ込んでくる。
「うわっ!」
「え…」
ゴチーン!
「「……っ!」」
「……………………」
視界を星が舞った。
「え…どういう状況?」
額を抑えてうずくまる私とディーノさんを見て、戻ってきたツナが困惑したように声を出した。