05前
尾行されている。
風邪も治ってから1週間後くらい。
学校からの帰り道でそう気が付いたのは、私が気配を読めるようになったから───ではない。
どかん! 「うわっ!」
ばしん! 「痛てぇ!」
びたん! 「……っ!」
とかいう音が、背後からひっきりなしに聞こえていれば、誰でも気が付くだろう。
しかも悲鳴を上げている声は、よく知っている声だけど、今1番会いたくない人の声だった。というか転びすぎですよディーノさん。
幸いにも(?)私は今イヤホンをしているので、音楽のせいで聞こえないというフリが出来るのだが……。
「なんだかなぁ…」
背後の人に聞こえないように呟いて、ため息を吐いた。
家に辿り着いた私は、門を開けて中に入る。ディーノさんは門の前に立って、私の家を寂しそうに眺めていた。……何で、貴方がそんな顔してるんだ。
「何か御用ですか?」
背後から声を掛けると、ディーノさんは驚いたように勢い良く振り返ってバランスを崩し、勢い良く電柱に頭をぶつけていた。……相変わらずだな、この人…。
ちなみに私は正面から入って裏から出てディーノさんの後ろに回っただけなんだけど、予想外に驚かせてしまったらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
「…大、丈夫…っ」
ディーノさんはリアル涙目。
見るからに大丈夫じゃなさそうですが。
「ちょっと待っててください」
ディーノさんを置いて、家に入る。氷嚢を作って外に出ると、ディーノさんは道端にしゃがみ込んでいた。
ちゃんと待ってたね、偉い偉い。内心、小さい子を褒めるような調子で呟き、氷嚢を差し出す。
「どうぞ」
「…サンキュー」
受けとったディーノさんは、未だ涙目のまま氷嚢を後頭部に当てた。
「それで、何か御用ですか?」
改めて訊ねると、ディーノさんは面白いくらいに慌てだした。
「い、いや、別になまえに会いに来たんじゃな………いや会いたくなかったわけじゃねーよ!? むしろ会いたかったけど……じゃなくて!」
………面白い。
「ツナん家行こうとしたらなまえの家があったから、元気にしてっかなって思ったんだよ!」
「ツナの家、行くんですか?」
「そ、そうそう! ツナん家!」
「ちょうど良かった。私もツナの家に用があるんです」
「そ、そうか……え?」
「良かったら一緒に行きません?」
ディーノさんは固まった。
「…なんて、冗談ですよ」
聞こえているのかいないのか、固まっているディーノさんは放置して、家に戻る。ツナの家に用があるのは本当だけど、別にディーノさんと一緒に行こうなんて思ってない。ちょっとした意趣返しのつもりだ。
そう考えていたのに、10分後に玄関のドアを開けたときにディーノさんがまだ居たから、本当にびっくりした。びっくりして2度見した。
「え、ディーノさん? 何で…?」
「何で、ってツナん家…」
「え……ホントに一緒に行ってくれるんですか?」
「……え?」
「………行きましょう」
誤魔化すため歩き出した私を、ディーノさんが慌てて追いかけてくる。待っててくれるって分かってたら、もっと早く準備したのにな…。ていうか冗談だって言ったのに…。
前に一緒に歩いた時のように、すぐ隣は歩かない。微妙な距離。とくに会話もなく、1分くらいでツナの家についた。
ぴんぽーん
呼び鈴を鳴らして数秒後。
「はーい」
という可愛い声と共に、奈々さんが現れた。
「こんにちは」
「まあまあ、なまえちゃんにディーノくん! 今ツナ呼ぶわね。上がって」
「いや、あの私は…」
「ツナー、お友達よー」
話聞いてください。
トントンと階段を降りてくる音がして、ツナが顔を出した。
「あれ、なまえ…と、ディーノさん?」
ツナは何とも不思議そうな表情をしていた。ディーノさんはバツの悪そうな顔をしていた。
……何だか知らないが、さっさと用を済ませて帰ろう。
「あ、これお父さんの実家から」
「え……カニ?」
「あらあら、いつもありがとう」
「いえ、どうせ食べきれないんで」
「今お茶入れるから、ゆっくりしていってちょうだいねー」
「いや、私もう帰…
「そうそう、新しいお茶菓子も出しましょう」
……あの…」
奈々さんは嬉しそうに笑って、奥に引っ込んだ。話を聞いてください。
「……じゃあ、まあとりあえず2人とも上がって」
「……お邪魔します」