ハネウマらいだー | ナノ
  4.5


翌日の木曜日、前日に雨に打たれた私はそりゃあもう当然の如く高熱を出した。

今、家には私一人だ。

お父さんは仕事で、お母さんは世界一周旅行中でいない。1ヶ月くらい前に、お父さんと壮絶な戦い(じゃんけん3回勝負)を繰り広げていたから、今度は何だろうと思っていたら、どっちが世界一周してくるかの戦いだったらしい。ちなみに、その前はどっちが私の授業参観に来るかだった。出かける前、お母さんがいじけているなぁと思ったら、その時はすごく嬉しそうなお父さんが見に来た。全く意味の分からない両親だ。2人で来ればいいのに。

私の看病をすると言って聞かなかったお父さんを無理矢理仕事に送り出し、1人になった部屋で冷えピタと仲良く寝込む。鼻詰まって寝れない。

「…ふぅ」

寝返りをうち、天井を見つめる。

『もう……会いに行かねぇからさ、安心してくれ』

ディーノさんに言われた言葉に思いのほか傷付いている私がいた。

「…安心してくれ、ね…」

目を閉じても、ディーノさんの顔が瞼の裏に浮かんでくる。……寝れない。安眠妨害だ。

「……あーあ」

視界が滲む。

昨日気付いたばかりの気持ちは伝えることすら出来ないまま、私の中で消えるのだろう。

…………ホントにさぁ、色んな意味で迷惑な人だった。

初めて会ったときには、お邪魔するつもりもなかったツナん家に入らされたし。へなちょこ、のせいで笑いすぎてお腹痛くなったし。

2回目のときは、迷子になってるし。コケまくって視界から消えるし。土手から転げ落ちるし。自信満々に違う方向に歩き出しちゃうし。

3回目のときは、睡眠妨害されたし。のど痛くなったし。コーヒーカップで酔うし。お化け屋敷でコケるし。お化けを驚かすし。

4回目のときは、……話聞いてくれないし。私の気持ちなんか分かろうともしてくれないし。事情も教えてくれないで、勝手に去ってったし。

今は安眠妨害されてるし。

あー、もうホント迷惑。迷惑すぎて涙出てきた。止まらない。

「……ぁー、寝れない」

ぐりぐりと、自分の両目をこする。泣いているうちに、いつしか私の意識は眠りへと誘われ───


ぴんぽーん


───チャイムの音で目が覚めた。
枕元の携帯で時間を確認すると、どうやらもう学校はとっくに終わっているようだった。もぞもぞと布団から這い出て、階段を降りる。うぅあ寒っ。
がちゃりと玄関ドアを開けると、見慣れた幼なじみの顔が見えた。

「ツナ…」
「なまえ、調子は?」

にこやかに笑ったツナの後ろには、獄寺やリボーンくんを肩に乗せた山本、京子に花といったクラスメートと、ハルちゃんやフゥ太くんやランボくんにイーピンちゃんに、果てはゴーグルをしたビアンキさんまでいた。……何故ゴーグル?

「ちゃおッス」
「なまえ姉、大丈夫? 僕すごく心配したんだよー」
「ランボさんひまー。なまえ遊んでー」
「はひっ、ダメですよランボちゃん! なまえちゃんは風邪なんですから!」
「なまえ、大丈夫? 無理してない?」
「思ったより元気そーだな!」
「ったく、十代目に心配かけんじゃねえ」
「どうせ昨日傘差さないで出掛けたんでしょ。バカね」
「なまえ、精の付くもの作ってきたわ。食べて」
「ど、どうもです…」

好き勝手に話すみんなに圧倒され、ビアンキさんに渡された袋を流れのまま受け取ってしまったところで、我に返った。
抱きついてきたフゥ太くんを引き剥がし、慌てて扉を閉める。

「ええ!? 何で閉めんの!?」

扉の向こうでツナが叫んだ。
ポケットから携帯を出し、ツナの携帯に発信する。

[もしもし? 何で閉め…]
「何でじゃないよこっちのセリフごほっ…何で来てんの?! ありがたいけど! 嬉しくて涙出そゴホッゴホッ……ぁ゙ー…だけど! 風邪うつったらどうすんの!」
[……ごめん、なまえ。落ち着いてくれないと何言ってるか全然分かんないから]
「ごほっ……ごめん。…みんなに、わざわざありがとうって言っといて。風邪うつると悪いから」
[あー、うん…。本当に大丈夫?]
「うん、ありがとう。ごめんね」
[無理すんなよ。じゃーな]
「うん」

電話が切れた。
ドアの向こうで、みんなが騒ぐ声がした(「ツナ兄ずるいよ! 僕も話したかった!」「ランボさんもー」「ハルもです!」「悪かったって!」「……アンタら本当に近所迷惑ね」)。案外私はみんなに愛されてるらしい。嬉しいなぁ。

ふぅ、と息を吐き出して階段に向かう。もう一眠りしよう…。

「辛そうだな」
「平気だよ」
「そうか」
「うん、心配してくれてありがとう」

階段に足をかけた。………はて。私、今誰と喋って……?

不意に、肩に重みを感じた。

「…リボーンくん」
「ちゃおッス」
「風邪、うつるよ?」
「大丈夫だ」
「……そう」

いつの間に入ったんだろう。全然気付かなかった。

「オレは一流のヒットマンだからな。気配くらい消せるんだぞ」
「なるほど」

こんな小さいのに殺し屋なんて、大変だなぁ。

「そんなことねーぞ」
「そっか、リボーンくんは凄いねぇ」

…………気のせいかな。さっきから心を読まれてるような気がする。

2階に上がり、自室に入った。一応、予防ということでリボーンくんにマスクを渡した。本当だったら私がマスクをすべきなんだろうけど、どうせこの部屋はもう菌だらけだから意味がない。

「何か、飲みたいものとかある?」
「オレに構わず寝てろ」
「ありがとう」

お言葉に甘えて横になった。さっきよりも体がだるい。
リボーンくんが私の頬に、ぺたりと手を添えてくれた。冷たくて気持ちいい。

二人だけの静かな部屋で、突然リボーンくんが呟いた。

「……ディーノのことなら、気にすんな」

びっくりして、思わずリボーンくんを凝視してしまった。
彼は相変わらず読めない無表情で続けた。

「どーせ、アイツの方が我慢できなくなるんだからな」
「………どういうこと?」
「すぐ分かる。…それに、」

そこで言葉を止め、リボーンくんは帽子の鍔を下げると、ニヤリと格好良く微笑んだ。

「いざとなったら、オレの愛人にしてやるぞ」
「……はは、」

愛人の意味分かってるのかな、リボーンくんは。いくらなんでも、ませ過ぎだろう。……だけど、多分私を慰めようとしてくれてるんだと思った。それは純粋に嬉しい。

「ありがと」
「もう寝ろ」
「うん」

リボーンくんに言われ、段々瞼が重くなってきた。
やがて私の意識は深い眠りへと落ちていった。
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