ハネウマらいだー | ナノ
  3.5


遊園地から数日後。ツナの家の前が物々しいことになっていた。
イカつい黒服の人たちがツナの家の前にたくさん立っている。……黒服っていうと、何故か遊園地を思い出すなぁ。凄く合わない組み合わせのはずなんだけどなぁ…。

これは遠回りするしかない。だって怖いし。
そう思って回れ右をしたところ、

「ちょっと待ちな、嬢ちゃん」

呼び止められて、足が止まった。ついでに心臓も止まった。

何で呼び止められるの。私、結構真っ当に生きてるのに。“ヤ”のつく自由業の方々に目付けられるようなことした覚えないよ? 何? 酸素吸って二酸化炭素吐いてるからダメなの? 温暖化に貢献してんじゃねーってことなの? でも、バスや電車やタクシーでお年寄りに席譲ったりとかするし………うん? タクシー? とか色々考えながら、私は精一杯の笑顔で振り返ってみせた。今の私の顔は最高に引きつっていると思う。

「……なんでしょう?」
「財布、落としたぞ」

目の前にいたダンディーな眼鏡のおじさんは微笑んで私の財布を差し出してきた。ええ何この人優しい!
今まで私は“ヤ”のつく自由業の方々を誤解していたかもしれない。財布を落としたことを教えてくれる優しい人もいるんだなぁ。

ちょっと心が暖かくなった。

「ありがとうございます」
「あれ、嬢ちゃんもしかして…」

その人はなかなか財布を返してくれない。拾ってやった代わりに中身全部寄越せとかそういう? ええええ嘘ぉお。ここまで親切にしといて落とすの?

ところが、目の前のおじさんの口から飛び出た言葉は、若干被害妄想気味な私の思考を覚ますには十分なものだった。

「みょうじなまえちゃんか?」
「……え?」

そうですけど……え? どこかで会ったことがありましたか…?
いや、私の知り合いにはこんな物騒な人たちは居ないはずだ。

「あの…何で、私の名前…?」
「そうかそうか! 嬢ちゃんがなまえちゃんか!」

ダンディーなおじさんは笑いながらバシバシと私の肩を叩く。周りの黒服さんたちがどよめいた。「あれが…」「なまえちゃん…」ええ私有名人? というか肩が地味に痛いよ、おじさん。ダンディーだからってやっていいことと悪いことがあるっていうかシカトなの? 私の質問は無視ですか?

「ここ通りたいんだろ? 気ィ付けて帰んな」

おじさんは私に財布を渡して、優しげな笑顔で道を開けてくれた。周りの黒服さんたちもそれに習う。
ぺこりと一礼して通り抜ける。その間に、「ボスのことよろしくな!」みたいな声を掛けられたけど曖昧に微笑んでおいた。

敢えて言おう。

“ヤ”のつく自由業のボスとかいう物騒な方は、私の知り合いにはいません!
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