03
ディーノさんとの3度目の遭遇は、何てことのない日曜日に起こった。
日曜日。
神が定められた神聖な休養日に休まないなど、神への冒涜である。
というわけで、私は思う存分寝ていた。最近新しく買ってもらったベッドはスプリングが良い感じで、体は沈みすぎず、かと言って不快なほどの反発はうけない。何て良いベッドなんだ。散々ねだって買ってもらっただけのことはある。
しかしその心地好い休息は、携帯の着信に寄って遮られた。
「……んむ」
枕元に置いてある携帯を探り、ディスプレイを見れば、知らない番号が表示されていた。
……これで間違い電話とか振り込め詐欺とかだったら、切る前に電話口で呪いの言葉を吐いてやろう。
そう心に決めて、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
[おす、なまえ! もしかして寝てたか?]
「……もしかしなくても寝てましたけど、えぇっと……ディーノさん?」
[ん? 何だ?]
驚くべきことに、相手はディーノさんだった。これじゃあ間違っても呪いの言葉なんて吐けない。
と、いうか。
「…どうして私の電話番号知ってるんですか?」
[ツナに聞いた!]
……ああ、際ですか。
もうツッコミを入れる気力も失せた私は、枕に顔をうずめた。ツナのやろー。ディーノさんだから良いけど、なに普通に個人情報流出してんだ。
携帯からは、相変わらず爽やかなディーノさんの声が聞こえてくる。
[午後暇か?]
「はあ…まあ一応は」
[よし、じゃあ昼頃迎えに行くからな!]
「は…」
プツン、と。
一方的な用件だけを告げて、電話は切られた。
数秒ほど考え、私は深いため息を吐いてから、ゆっくりと起き上がって体を伸ばした。
仕方ない。準備しよう…。
宣言通り12時きっかりに我が家に現れたディーノさんは、輝くような笑顔で私を引っ張り、途中で何度か転びながらも近くの遊園地に連れて来てくれた。
ていうか何で私の家知ってるんですか。どうせツナから聞いたんだろうけど。まあディーノさんだから別に良いけど! ツナ! お前って奴は!
「なんか乗りたいやつあったら遠慮せずに言えよ」
頭の中で幼なじみの口の軽さに呆れていると、ディーノさんが笑って言った。
「…あ、そういや昼飯まだか?」
「…いえ、昼ご飯は食べました。なので、」
私が指差したジェットコースターを見て、ディーノさんはニヤリと笑った。
「あれに乗りましょう」
「よし!」
意気揚々と1歩踏み出して、盛大にコケた。
…………本当に、期待を裏切らない人だなぁ。
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ジェットコースターで叫んで喉が痛くなったり、コーヒーカップ回しすぎて酔ったり、お化け屋敷の闇の中で予想通りディーノさんがコケて逆にお化け役のお兄さんが驚いて失神してしまったり、なかなか、楽しかった。…………最後のは、まあ…良い思い出だよ、きっと。
ベンチに腰掛けて少し休む。
「いやー、楽しいなー!」
はしゃぐディーノさんを横目に、私は少し浮かない気分ではあった。
気のせいかもしれないが、先程から黒服でコワモテな人をたくさん見かけるのだ。ディーノさんは気付いているのかいないのか分からないけど、やたらとイカつい黒服のお兄さんやらおじさんやらが多い気がする。ここ遊園地なのに。…いや別に黒服でコワモテな人が遊園地来ちゃいけないなんて法律はないけど……、私の勘違いでなければ、その人達はみんなディーノさんを見ているような…。
「疲れたか?」
慌てて顔を上げると、ディーノさんが心配そうな顔で覗き込んできていた。
「あ、大丈夫です」
「悪かったな。いきなり連れてきちまって」
「いえ、ありがとうございます。凄く楽しいです」
「そうか?」
嬉しそうに笑うディーノさんを見たら、あの心地好いベッドから離れたのも…まあ良かったのかな、なんて思った。黒服さんたちも、見ているだけのようだし、気にするほどのことでもないのだろう。そう思った私は心置きなく遊園地を楽しむことにした。
「次はあれ行きましょう」
「……なまえは絶叫マシーン好きなんだな」
私が指差したアトラクションを見て、ディーノさんが笑った。