02
へなちょこ……もといディーノさんとの2度目の遭遇は、ある日の学校帰りのことだった。
前方から、やたら目立つ金髪の人が歩いてくるなあと思っていたら、ディーノさんだった。
私のことなんか覚えているだろうかと思ったのだけど、笑顔で手を振ってくるところを見ると、心配は無用だったらしい。手を振りながら私に近付いてきて、何もないところで転んだ。
…………ええと、
全力で見なかったことにするべきか真剣に悩んだけど、それは流石にどうかと思ったので近付く。てゆーかこの道路、最近舗装されたばっかで障害物とか何にも落ちてないはずなんだけどなぁ。
「こんにちは。…大丈夫ですか?」
「痛ててて。今日は何だかよく転ぶなぁ…」
前にも似たようなことを言っていた気がする。
「…今日は、どうしたんですか?」
「いや、ツナん家に行きたいんだけどさ……もしかして引っ越したか?」
「…………は?」
「2時間くらい歩いてんだけど、着かねーんだ」
詰まるところ、───迷子なんですねディーノさん。
「別に、引っ越したわけじゃありませんけど……」
「え?」
「良かったら一緒に行きましょうか?」
「……え?」
「同じ方向ですから」
ディーノさんは一瞬だけ固まっていたかと思うと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「頼む!」
ディーノさんの笑顔を見て思い出した。
「そうそう。…私の名前、みょうじなまえって言うんです」
「…知ってるぜ?」
「一応、ちゃんと自己紹介してなかったので」
ディーノさんは数秒呆けてから、突然笑い始めた。
「やー、なまえって面白いな!」
貴方の方が面白いですよ、ディーノさん。言わないけど。
それから、ディーノさんと歩くこと十数分。コケる回数が半端じゃなかった。もう、なんていうかこれは既に、一種の才能ではなかろうか? 突然、視界から消えたと思ったらコケている。本当に大丈夫かなこの人。話の最中に消えるからホントにびっくりするのだ。
そして、土手を歩いていた時。
「そしたらエンツィオ、がッ!」
突然切れた話に、またかと思って横を見る。が、ディーノさんはいなかった。ちょっと焦る。
「ええッ!? ちょっ、ディーノさん!?」
「痛ててて…」
呻き声の方向から察するに、どうやら土手を転がり落ちたらしい。歩いてたの、道の真ん中なのになあ……。
土手の斜面を降りると、頭まで草まみれのディーノさんがいた。
「…大丈夫ですか?」
立ち上がらせようと半ば無意識に手を差し出すと、ディーノさんが驚いたようにその手を見つめた。しばらくそのまま見つめられ、もう仕舞おうかと思い始めた頃、ディーノさんは躊躇いがちに私の手を取った。思いっきり引っ張る。
ディーノさんはすぐに立ち上がり、片手で服に付いた砂を払うと、そのまま歩き出した。
いや、手繋いだままなんですけど。
そんな私の心中にはお構いなく、ディーノさんは普通に歩いていく。
「あの、ディーノさん?」
「ん? 何だ?」
「えっと…」
輝くような笑顔に、言葉が詰まる。
だけど、言わなきゃ。
私は覚悟を決めて口を開いた。
「そっち、さっき歩いてきた方向ですよ?」
「………………あれ?」