幼なじみの場合。
7.5Bと7.5Cの間の話
最近のなまえは、変だ。
綱吉は、思いっきり壁にぶつかった幼なじみを見て、改めてそう思った。
「いったぁ……」
「……大丈夫?」
「大、丈夫……っ」
そう言いながら額を抑えるなまえの目には、涙の膜が張っている。
昔から、なまえは同世代の中では比較的しっかりしている子供だった。
それこそ物心つく前から一緒に過ごしてきた綱吉も、彼女は頼りになる存在だと思っていた。
ところがなまえは、ここ最近ずっとこんな調子だったのだ。
会話は上の空、勉強でもダメツナと呼ばれる彼でさえしないようなイージーミスをするし、歩いていれば人にも物にもガンガンぶつかる。『頼りになる』という言葉からは程遠く、むしろ『危なかっしい』。
今では、見かねた綱吉が、登下校を共にしてフォローに回っているほどだ(目の前で赤信号の横断歩道に踏み出されたときは、本当に冷や汗が出た)。
獄寺や山本も違和感を感じているらしいし、クラスメートの京子や花からは「何か心当たりない?」と聞かれる始末だった。
その時は適当に誤魔化したが、なまえがこうなった理由に、綱吉は心当たりがあった。
(ディーノさん、)
なまえの様子が変わった日から、事ある毎に顔を見せていた兄弟子が、全く姿を現さなくなったのだ。
「もう関わらない」と言われたのだと、彼女自身の口から聞いた。
綱吉は、なまえを家族のように思っている。だから、中途半端に彼女を傷付けたディーノに少なからず思うところはあった。だが、大切な人を巻き込みたくない気持ちは分かるのだ。
綱吉は複雑な気持ちだった。
「……なあ、なまえ」
「何?」
未だ涙目のまま、なまえが不思議そうな顔をする。
「本当に、これで良いのか?」
少しだけ驚いたような顔をしてから、彼女はふっと微笑んだ。
「……何の話?」
「惚けんなよ」
少しばかり苛立った調子になった綱吉の声に、なまえは目を丸くした。
そして、ため息を吐いて肩を竦める。
「……ロマーリオさんが来たときにも言ったでしょ。誰に言われても、私からは会わないよ」
「なまえ…」
「さ、この話は終わり。行こう?」
さっと立ち上がって歩き出すなまえに、綱吉も慌てて立ち上がる。
彼女の意志が固いのは、綱吉にはすぐわかった。なまえは絶対に、自分からディーノに会おうとすることはないだろう。
だが、このままではなまえは元に戻らない。
(やっぱり、ディーノさんから会いに来てもらうしかないよなあ…)
帰ったら、なまえを気に入っているらしい小さな家庭教師にも相談してみるか。
ぼんやりと考えながら、彼はなまえの後を追った。