ハネウマらいだー | ナノ
  部下の場合。


7.5Aと7.5Bの間の話







「はぁ…」

ロマーリオはため息を吐いた。
原因は言わずもがな、彼のボスであるディーノだ。その当人は、積み重なる書類を処理しながらも、どこかぼんやりとしている。
つい最近までは、何かにつけて日本に遊びに行っていたディーノが、近頃めっきり日本に行きたがらなくなったのだ。

理由は分かっている。
大方、ボンゴレ十代目の幼なじみの、みょうじなまえという少女絡みだろう。
その少女に出会ってから、日本に行く頻度がぐっと上がった。彼女に会えると、嬉しそうにその話をするし、たまに会えずに帰ってくると、分かりやすく落ち込んでいるのだ。

一度、どこから聞き付けたのかは知らないが、ディーノを狙った殺し屋がなまえをさらったことがあった。その時のディーノは、『跳ね馬』などというかわいいものではなく、もはや『暴れ馬』というに相応しいものだった。幼い頃から彼を知っているロマーリオは、その成長に思わず涙したのだった。
あの日、勢いで少女に別れを告げてから、ロマーリオにはディーノが落ち込んでいるのが手にとるように分かった。あの時は、一週間後くらいに一人で会いに行き、結局見付かってしまったらしいが。

今のディーノは、その時の比でないほどに落ち込んでいた。

(また何かやらかしたのか…)

先程から全く減らない書類に、ロマーリオは再びため息を吐く。
彼女を巻き込んだことをずっと思い悩んでいたから、今度こそ本当に関わらないつもりで別れを告げたのだろう。ロマーリオにはお見通しだった。
自分が傷付くと分かっているのなら、やらなければいいのに。まるで自傷行為だ。きっとディーノは無意識に罪悪感から逃れようとしているのだ。傷付けた分、自身も傷付けばいいと何処かで思っている。彼はそう推測していた。

我がボスながら、まだまだ青い。ロマーリオは子供を見守る親のような気分だった。

しかし、書類が進まないのは大問題だ。
いつも、何処かに遊びに行くとしても、やるべきことはきちんとやってから遊びに行くのがディーノだったのだ。それが、今は何処にも出掛けてないのに、仕事が全く終わらない。

ロマーリオはため息を吐きながらも、コーヒーをいれてやった。書類が重なる机の上に、気遣わしげにそっとカップを置くその姿は、正に『出来る部下』そのものだった。

「ああ、ありがとな……」

ディーノは何処か遠くを見ながらカップに手を伸ばした。それを見て、ロマーリオはまたため息を吐いた。

(ああ、本当にどうすりゃあ良いってんだ…)

こんなに落ち込んだディーノを見るのは初めてで、どうしたらいいか分からない彼は無力感でいっぱいだった。
本日何度目かのため息を吐き出しかけたとき、

「ぅおぁっつ!」

ディーノが思いっ切り叫んだ。
ロマーリオが慌てて振り向くと、彼のボスは脚の上にコーヒーを零したらしかった。さらに、反射的に上げてしまった足を勢い良く机にぶつけ、痛みに悶えるディーノ。そして、足がぶつかった衝撃で机が揺れ、積み重なっていた書類が床に散らばった。

「あーあー…」

ロマーリオは呆れたような表情で書類を集めはじめる。

「わ、悪い!」

それを見て手伝おうと慌てて立ち上がったディーノは、ちょうど足元に落ちていた書類を踏んづけ、勢いよく転んだ。

「いってー……」
「……」

何と言うことだ。

ロマーリオは自分の頬が引き攣るのを感じた。
自分がいるのに、何たるドジ。究極のボス体質であるディーノには、有り得ないはずの現象だった。それが起こるまでに、あの少女はボスに影響を与えているのだ。

「……なあ、ボス」

目の前で転んでいるボスが余りに不憫で、ロマーリオは思わず声をかけた。

「日本、行かねぇか?」
「! な、え……き、急にどうしたんだよ」

分かりやすく動揺するディーノに、ロマーリオはまたため息を吐きそうになる。

「たまには息抜きしたらどうかと思ってよ」
「……いや、いい」

ディーノはロマーリオから目を逸らし、黙々と散らばった書類を集めた。

「まだ書類も終わってねぇしな」

言い訳のように続けたディーノに、ロマーリオは今度こそため息を吐いた。こうなったボスが頑固なのは、彼が一番よく知っている。
ロマーリオは諦めて、書類集めを再開した。

そこで、ふとなまえに思考が向かう。彼と彼女が面と向かって話をしたのは、一度だけ。彼女が落とした財布を拾ってやった時だ。
その時の印象としては、礼儀正しい子。それと、幼なじみの綱吉と比べて、少しばかり大人っぽい感じを受けた。真面目そうだし、彼女の知り合い(主に綱吉やリボーンだが)からは、悪い噂を聞かない。リボーンなどは、愛人にすると宣っているし。誘拐された時の話も聞いたが、中々肝っ玉も座っているようだ。

(もったいねぇなぁ…)

純粋にそう思った。
ディーノの雰囲気から察するに、なまえが別れを望んだ訳ではないだろう。そんなことになったら、ディーノは一週間は自室に引きこもるに違いないだろうから。

さて、どうすればディーノは元に戻るだろう。
自分一人ではもう手に負えない。リボーンや綱吉にも手伝ってもらおうか。

そして何よりもまず、当の少女の気持ちを確かめなければ。

書類を集めながら、ロマーリオは思案するのだった。
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