ある日ツナの部屋。
俺の前にはリボーンとツナが座っている。

「あの……ディーノさん、どうしたんですか？」

神妙な顔をする俺に、ツナが訝しげな顔で訊ねてきた。

「……実は、」
「どーせ、なまえのことだろ」

意を決して口を開いた俺の言葉を、リボーンがさらった。

「な!?」
「え？ なまえ？」

図星を指されて慌てる俺に、ツナが不思議そうな顔をする。

「…なまえがどうかしたんですか？」
「いや…その……聞きたいことがあってな」

コホン、と咳ばらいをしてから息を吸う。……なんでこんなに緊張してるんだ、俺。

「なまえ…前に、俺のせいで…誘拐、されただろ？」
「…あぁ、あれ」
「お前がなまえの話も聞かずに一方的に別れを告げた日のことだな」
「リボーン！」

睨んでみても、奴は飄々としていた。

「事実だろ」
「うっ………あ、あれは…その、なんていうか…」

あの時は、あれが最善だと思ったんだ。……結局、無理だったけど。

「そ、そんなことより！」

強引に話を切り替える。

「…あれから、なまえは何か言ってなかったか？」

ツナは首を傾げて考える素振りを見せた。

「何か、って……特に何も言ってませんでしたけど……どうしてそんなこと…？」
「……怖い思い、させちまったはずなのに、」

俺のせいで巻き込まれたのに、勝手に別れを告げたのに、耐えきれなくて会いに行っちまったのに、なまえは何事もなかったのように変わらない態度だった。

あの事件のことも。

「なまえは、何も聞いてこねえんだよ」
「単にお前に興味がねーからじゃねーか？」

グサリと、リボーンの言葉が突き刺さる。……こいつはもうちょっとオブラートに包むとかさあ…。俺の気持ちだって知ってんのに、なまえを愛人にするとか言うし…。なまえは冗談だと思って流してるみたいだけど。
本当、なまえは何事にも動じない。いつも冷静だ。

そこで、ハッとした。
……ま、まさか。

「…もしかして、俺がマフィアのボスだって、もう知ってたりするのか？」
「いや……それはないですよ」

沈黙していたツナが、苦笑しながらゆっくりと言った。

「昔からなまえは、1番大事なことは聞かない奴で」
「…え」
「そういうのは、本人が話すまで待つような奴なんですよ」

…………。

「なまえは馬鹿じゃないから、多分、薄々感づいてはいるんだと思います」
「……」
「でも、ディーノさんから話されるまで、アイツは何も言わないし、聞かない」

嫌に説得力がある。
……ああ、そういえば、ツナとなまえは幼なじみなんだもんな。


そうだ。なまえは、一般人なんだ。


「…優しいんだな、なまえは」
「……」
「ツナ、サンキューな！ お前が弟分で本当に良かったよ」

心は決まった。

ツナの家を後にして、俺は携帯でなまえに電話をかけた。