「ざまぁねえ!! 負けやがった!!! カスが!!!」

びくっ!
ガクンっ
とすっ

「…あ、ありがとうございます。すみません」
「立ったまま寝てたのかい?」
「ししっ、器用だな」

マーモンとベルに言われ、なまえは申し訳なさそうに体を縮めた。
雨の守護者戦、彼女は序盤から既に意識がなかった。誰にも気付かれないまま、なまえはずっと立った状態で寝ていたのだが、ザンザスの笑い声で目を覚まし、バランスが崩れて倒れそうになったところを、横にいたベルが咄嗟に支えたのだった。
笑っているベルを意識の外に追いやり、慌てて話を変えようとするなまえ。

「あ…スクアーロさんは…」
「負けたよ」
「え…」

マーモンの言葉になまえは驚きを隠せなかった。スクアーロはヴァリアーの作戦隊長だ。ヴァリアーのNo.2がやられたという事実に、なまえは思わず笑みを零す。いずれやって来る戦闘が、ますます楽しみになった。

「用済みだ」

スクアーロを消そうとするヴァリアーの面々の後ろに、チェルベッロが降り立つ。

「お待ちください。今アクアリオンに入るのは危険です」

フィールド内に、獰猛なサメが放たれた。
山本がスクアーロを助けようと担ぎ上げる姿が、モニターに映し出される。しかし、山本も傷だらけの体でよろめいていた。サメは、血の臭いに反応して近付いてきた。そして、二人がいる地面が、サメの体当たりによる衝撃で崩れかかる。それでもスクアーロを助けようとする山本を、スクアーロが上に蹴り飛ばした。そのまま彼はサメに食われ、水面には血が浮かびあがる。

「ぶはーっははは!!! 最後がエサとはあの───ドカスが!!」

モニターに映る山本は、歯を食いしばり悔しさと怒りの混じった表情を浮かべていた。

「……んだよっ」
「こ……こんな終わりかた…」

獄寺や綱吉も、納得がいかないような顔をしている。
その表情を見て、なまえは首を傾げた。







翌日の昼下がり、なまえは道を歩いていた。途中すれ違った中学生2人組が、「ボンゴレの奴…」と呟いていて、思わず凝視してしまう。

「てめー…何見てんらびょんっ!?」
「犬……八つ当たりしない」

絡まれたなまえは「す、すみません」と謝り、先を急いだ。こんなところで騒いだらザンザスに怒られるだろうと考えてのことだった。ともあれ、あの中学生たちが言っていたボンゴレという言葉が綱吉のことなら、彼女の向かっている方向は正しいということだ。
しばらく歩くと、なまえは駄菓子屋の前のベンチで寝ている綱吉と、リボーンを見付けた。

「あ…」

───どうしよう…。スーツの赤ん坊もいる…。

せっかく来たが、諦めて帰ろうかと踵を返したなまえの背中に、リボーンの声が掛けられる。

「何か用か?」

びくっ!

元々、気配は消していなかったのだからバレて当たり前なのだが、予想外に話しかけられてなまえは思わず体を震わせた。恐る恐る振り返ると、リボーンはまっすぐ彼女を見ていた。

「えっと……こ、こんにちは」
「ちゃおっス」

ナチュラルに挨拶してくるリボーンに、なまえは目を丸くした。

「ツナに用があるのか?」
「あ、いえ、その……別に大したことじゃ…」
「ちょっと待ってろ」

そう言うが早いか、リボーンは綱吉の頭を容赦なく蹴り飛ばした。

「痛ってぇぇえー!」

悲鳴を上げ、頭を抑えて勢い良く起き上がる綱吉に、思わず一歩引くなまえ。

「ちゃおっス」
「何すんだよリボーン!」
「客だ」

リボーンがなまえを指差す。彼女と目があった綱吉はその目を大きく見開いた。

「き…君は…!」
「え、えぇと…こんにちは」

なまえは軽く会釈をしてみせた。

「どうしてここに…?」
「あ……そ、その、大したことじゃなくて…えっと…」

警戒心を込めてなまえを見る綱吉。パタパタと弁解するように手を振りながら、彼女は頭の中で言葉を組み立てていた。

「き、聞きたいことがあって……」
「な、何?」

綱吉に促されて、なまえは萎縮しながら口を開いた。

「辛いんですか?」
「…は?」

───あ、わっ、間違えた!

補語がない質問に、綱吉はぽかんと口を開けてなまえを見る。彼女は半ばパニックになりながら、慌てて言葉を重ねた。

「…き、昨日、スクアーロさんがサメに食べられた時に、貴方達は凄く辛そうな顔をしていたので…」
「……」
「敵が死ぬのは、嬉しいことじゃないですか?」

純粋な疑問。なまえはただ、不思議だと思ったから訊ねただけだ。
綱吉は、昨日のことを思い出して苦い顔をする。

「嬉しいわけ…ないよ」
「そ…そう、なんですか……?」

なまえは尚も不可解そうに首を傾げる。それを見て、綱吉は思わず口を開く。

「君は、悲しくないの?」
「悲しい? …え、えっと…、何がでしょう…?」

全く解らない、と言ったなまえの表情を見て、綱吉はまるで自分が間違っているかのような錯覚に陥った。

「だって、スクアーロは仲間なんでしょ?」
「仲間……まあ、そうですね」
「大切な仲間が死んだら、普通は…」
「大切、というのは、少し…違うと思います」

綱吉を遮って、なまえが言う。しばらく言葉を探すように空中に視線をさまよわせてから、口を開いた。

「スクアーロさんは…えっと、確かに仲間なんですけど……大切ではない、です」
「え…」
「その…私たちはマフィアで、殺し屋ですから……。今日や明日にでも死ぬかもしれない中で、大事なものなんて、邪魔になるだけだと思います」
「……」
「それに、人が死ぬのは当たり前のことですし…、他人の命を奪う人間が、他人より早く死ぬのは普通でしょう? 何が悲しいんですか?」

綱吉は唐突に理解した。

ああ、この子は。
この子にとっては命なんてどうでも良いんだ。誰が死のうが生きようが、きっと彼女は気にしない。───無論、彼女自身も含めて。

答えを待つなまえを見て、彼は微かに嘆息した。

「それでも、」

力強く言葉を紡ぐ。

「……」
「それでも俺は───仲間を失いたくないと思う。……そこが、俺の居場所だから」

なまえは綱吉を見て目を細めた。
弱そうだと思っていた。けど、これは───。

彼女は薄く笑みを浮かべる。

「貴方は、マフィアのボスにはあまり向いていませんね」
「いやっ、別に俺はマフィアとかならないしっ!」
「…え?」
「お前はまだそんなこと言ってんのか」
「ひぃ!」

リボーンに銃を突き付けられ、焦る綱吉。そのやり取りを見て、なまえは思わず微笑んだ。

「……じゃあ、私はこれで…。修行、頑張ってくださいね」
「(応援されたー!?)あ、ありがとう…」







帰ってきたなまえを見付けて、ベルが笑った。

「おかえりー。どこ行ってたんだよ、なまえ」
「あ、ただいまです。ちょっと、散歩に…」
「ふぅん」

ベルは座っていたソファの端に避け、なまえが座るスペースを空けた。彼女はお礼を言って腰を下ろした。

「そーいや、マーモンが『見物料Sランク3回分』だってよ」
「あー…じゃあ止めておきます」

なまえは苦笑した。

「寝んの?」
「寝ます」
「あっそ」

ベルはつまらなそうに体を伸ばした。

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