次の日の夜。なまえは何とか意識を保ったまま、並盛中学に居た。寝たら殺される、という脅迫観念を浮かべて眠気を覚ました。
ヴァリアーも、相手も揃っているのに、ベルの対戦相手の獄寺だけが一向に現れない。

「逃げてどーすんだか? どうせ殺されんのに」
「あの時計の針が11時をさした時点で獄寺隼人を失格とし、ベルフェゴールの不戦勝とします」

チェルベッロが、窓の外の時計を示して言った。
その様子を見ながら、なまえはマーモンに訊ねた。

「あの……チェルベッロさんの片方の人、変わってませんか?」
「ああ、昨日ボスがちょっとね」
「あ、そうなんですか…」
「うん。それにしても、よく気が付いたね」
「いえ…何となく、だったんですけど」

マーモンと会話をしている間に残り数秒となった。これで、寝ても殺されないだろう。なまえは安心したが、あと1秒となったとき、時計が爆発した。

「え…」
「お待たせしました十代目!! 獄寺隼人、いけます」

派手な登場だと思った。やっぱり、寝たらダメか。なまえは小さくため息をついた。

「今宵のフィールドは、校舎の3階全てです。もちろんこの棟と繋がる東棟も含まれ、廊下だけでなくこの階にある全ての教室を含みます。ただし、」

チェルベッロが言葉を切った瞬間、ガタガタと音が鳴る。何の音だろうかとなまえは頭にハテナを浮かべた。

バリーン!

「っ!?」

目の前を机が飛んでいった。そのまま、机は校舎の窓を突き破って校庭に落ちた。
音に驚いてびくっと体を震わせたなまえを見て、ベルが笑う。

「ビビりすぎだっつーの」
「す、すみません…」

───寿命、縮んだ…。

なまえがふぅ、と息を吐き出すと同時に、

「何だ? 今のガラスの音は。ケガ人はいねーか?」

男が現れた。チェルベッロによって盛大に殴り飛ばされたその男に、なまえはうっすら見覚えがあった。

「トライデント・シャマル───…噂では2世代前のヴァリアーにスカウトされ、それを断ったほどの男……」

そのシャマルは、笑顔を浮かべてヴァリアーに向かって手を振った。

「ってわけでオレこっちつくからよろしくな、喪服の連中ーっ!」

───喪服…。

なまえはその言葉に地味にショックを受けた。
ベルと獄寺の両者が中央に呼ばれ、勝負開始が告げられた。即座に獄寺が様子見として投げたボムの爆風や爆煙をものともせず、ベルの攻撃は狙いが正確だった。
ベル優勢の状況が続いたが、獄寺がワイヤーに気付いたことにより、僅かに流れが変わる。

「…気付いたかぁ゙」
「馬鹿ではないんですね…」

見破れても余裕の態度を崩さないベルに、獄寺がダイナマイトを投げる。風に阻まれて当たるはずがない、とタカを括っていたベルに、方向転換したボムが襲い掛かった。爆音。

「あ…」
「ベルの奴、無傷ではあるまい」
「そのとおり…あれが始まるね」
「おぞましーぜぇ」

煙が晴れて現れたベルは血まみれで、纏う雰囲気が明らかに変貌していた。

「うししししし!! あぁあ゙〜っ! 流しちゃったよ王族の血を〜!!」

あまりの不気味さに、獄寺の頬を冷や汗が伝う。

「自分の血を見てから始まるのさ。プリンス・ザ・リッパーの本領は」
「あいつの奇行、相変わらず理解できねーぜ」

ベルが自分の血を見て興奮するのは、その血に兄の姿を見るから。ゴキブリと間違えた、と実の兄を滅多刺しにしたベルは、その時の快感を忘れられずにヴァリアーに入隊した。モニターに映るベルは、無邪気な笑みを浮かべている。虫を踏み潰して笑う子供のような笑み。

「ラッキーですね、あの中学生」
「あぁ゙?」
「キレたベルさんと戦えるなんて」
「……」
「きっと、すごく楽しいですよ」

画面の中のベルと同質の微笑みを浮かべたなまえを見て、スクアーロはため息を吐いた。
どいつもこいつも狂ってやがる。無論、自分も同じだが。それが当たり前のことなのだ。狂っていなければ、人を殺し続けることなんて出来ないのだから。

モニターの中では、戦闘が再開されていた。獄寺が投げたダイナマイトを無駄のない身のこなしで避け、ナイフを投げるベル。その狙いは、風に邪魔されデタラメだった。だが、獄寺の体には傷が付く。

「どーなってんだよ!! ナイフにはあたってねーぞ!?」

予想外の状況に焦る獄寺に、ナイフを持ったベルが襲い掛かる。獄寺はミニボムを爆発させ、ベルと距離を取る。出血多量でフラフラになりながらも更に興奮するベルから隠れながら、獄寺は図書室に駆け込んだ。飛び込んできたベルにむかって投げたダイナマイトも、触れていないのに斬られてしまう。違和感を感じる獄寺だが、ベルは考える暇も与えずに攻撃する。それを避け続けた獄寺は、いつの間にか張り巡らされたワイヤーによって、身動きがとれなくなってしまった。楽しそうにベルが笑う。

「ししししっ、おっしまーい」

獄寺は変わらぬ表情のまま、呟いた。

「お前がな…」

獄寺は、こぼしていた火薬を導火線のように使い、ワイヤーのついたナイフが刺さっていた本棚を爆発させた。そしてそのワイヤーを利用して、ボムをベルに向かわせる。駄目押しのボムを投げられたベルは、煙が収まったときには傷だらけで気絶していた。誰もが獄寺の勝利を確信した。そしてベルの首に掛かったリングを手に取った獄寺。その首に掛けられていたリングに、気絶していたはずのベルの手が伸びた。
勝利への異常な執着。取っ組み合いのようになりながらリングを取ろうとする2人をよそに、ハリケーン・タービンの爆発が始まった。それは次々とその使命を全うし、とうとうベルと獄寺のいる図書室にまで及んだ。

「…2人とも死にましたかね?」
「どうだろうね」

ところが、ギリギリで抜け出した獄寺が煙の中から現れ、ベルの勝利が宣言された。そして次の対戦が発表された後に、レヴィの部下が現れ、校内の異常を知らせた。全員が、何事かと身構える。

ほどなく、風紀の腕章をつけた雲雀が現れた。

「僕の学校で何してんの?」

部下を潰されたことに怒ったレヴィが襲いかかるが、雲雀はそれをいとも簡単によけて見せた。
ニヤリと笑うスクアーロが、刀を構える。

「ゔお゙ぉい!! 貴様何枚におろして欲しい!?」
「ふうん、次は君?」

今すぐにでも戦い始めそうな2人を、チェルベッロが止める。

「おやめください。守護者同士の場外での乱闘は失格となります」
「…あの、」

なまえがおずおずと口を挟む。小さな、よく通る声色で。

「守護者じゃなければ、いいんですか?」

そう言うなまえの目には、純粋な戦闘欲が見て取れた。戦いたくてうずうずしている。薄く笑っている彼女の狂気を感じ取り、ツナは顔を青ざめさせた。雲雀は楽しそうに口元を歪ませる。

「君が相手なの? 誰からでも良いけど」
「───なまえ」

マーモンに名前を呼ばれ、なまえは我に返ったように得物へと伸ばしていた手を引っ込める。

「そ、そうですよね。あの人はモスカさんの相手ですもんね……」

残念そうに肩を落としてから、すぐに顔を上げた。

「わ、私ベルさんのこと拾ってきます…」
「うん、頼むよ」

マーモンの返事を聞き、踵を返す。

───早く、争奪戦終わらないかな…。

なまえは無意識に笑みを浮かべる。

───…楽しみ。

これから来るであろう、戦いに思いを馳せながら、なまえは欠伸をかみ殺した。

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