「え……日本…ですか?」
「スクアーロが任務失敗したんですって」

なまえは僅かに目を見開いた。
珍しいこともあるものだ。と、同時にどうでもいいことだと思う。

自分の尻拭いは自分で。
ヴァリアーとはそういう集団であり、少なくともなまえ自身はそうだった。ただ、幹部全員で出向くというのだから、大変な任務だったのだろうな、とは思った。そんな大変な任務に観光目的でついて行ってしまったことに僅かな罪悪感を覚えた。

「お土産、お願いしますね」
「あらやだ、何言ってるのよ! なまえちゃんも一緒に行くに決まってるじゃない!」
「……え?」

眉を顰めたなまえをよそに、ルッスーリアは楽しげに鼻歌を歌っている。

「観光ならこの前行きましたけど…」
「嫌ねぇ、なまえちゃんったら! 観光じゃなくてお仕事よ、お仕事! それにしても、幹部みんなで旅行なんて…楽しみだわぁ」

───今普通に旅行って言った。

「…私、幹部じゃありませんよ?」
「ふふっ、早く準備しなくちゃね!」

なまえの言葉が聞いているのか聞いていないのか、ルッスーリアは彼女の手を取って歩き出した。
ルッスーリアは部屋になまえを連れて行き、タンスから可愛らしい服を沢山取り出した。

「なまえちゃんに着てほしくて、色々作ってたのよ〜」

「お仕事」だという割には、ルッスーリアはなまえに服をあてがい、遊んでいる。
何故このタイミングで服を変えようとするのか。しかも手作りなど、そんな暇がいつあったのか。
疑問は沢山あったが、嬉しそうなルッスーリアを見ていると、何も言う気になれない。

「これが良いかしら? でもこっちも捨てがたいわ!」
「……隊服で」
「それじゃあつまらないじゃない!」
「楽しむ必要ありますか…?」

げんなりするなまえに構わず、ルッスーリアは楽しそうに服を選ぶだけだった。
それから数時間、着せかえ人形のような扱いを受けたなまえは、ルッスーリアが渡してきた服から比較的動きやすそうなものを選んで着てやることにした。

───1つは着とかないと、ルッスーリアさん泣くからなぁ…。

なまえはため息を吐き、欠伸をした。







再び、日本。なまえはまた同じ場所に降り立った。
詳細は、日本に来る途中に聞いた。だからこそ、益々なまえには理解できなかった。守護者のポジションは埋まっており、自分が居る意味はない。
ザンザスに聞いたところで答えてはくれないし、他の幹部だって「なまえだから」と、明確な答えは返ってこない。結局、訊くのは無意味だと判断し、彼女は気にしないことにした。
今はレヴィが相手の守護者を探しに行ってしまったため、特にすることもなくなまえは眠気と戦いながら散策していた。少し前と同じ、平和な町。

要するに、彼女は暇なのであった。

そんななまえに一本の電話が掛かった。相手はマーモンだった。

[相手の守護者と遭遇したよ。なまえの位置から南に925m、東に301mにいるから、君もおいでよ]

なまえは電話を切ると、言われた地点に向かって歩き始めた。
自分は守護者ではないのだから、最悪その場にいなくても問題はないだろう。むしろ、面倒なことには係わり合いになりたくない。そう考えて、彼女はマイペースに歩を進めた。

ゆっくりと歩いていたはずのだが、なまえが言われた場所に辿り着いたのは、数分後だった。
緊迫した空気や殺気の感じからして、角を曲がった先にいるようだ。出来るだけ関わりたくなかったのだけれど、着いてしまったのだから仕方がない。
ため息を吐きながら曲がった先で、なまえは先日出会った気弱そうな少年たちを見た。仲間と思しき少年たちや、赤ん坊までいる。その視線の先にいるのは紛れもなくヴァリアーだ。

───まさか───相手が中学生とは聞いていた───けど───

信じられない気持ちで綱吉たちを見つめるなまえの視線に気付いたのか、綱吉が彼女のほうに振り向いた。

交錯する視線。

なまえはこの前の少年だと確信した。綱吉の目が驚きに見開かれた。獄寺や山本もそれぞれ驚いたような反応をした。

「君は…この前の!? なんで…」
「うししっ、なまえ遅かったじゃん」

綱吉の台詞と被る形でベルが笑った。なまえはゆっくりと息を吐き出した。いつのまにか止めてしまっていたらしい。
ベルの言葉を聞いて綱吉は顔を青くした。

「そんな…嘘だろ…!?」

綱吉の反応を見て、ベルが不満げに口を尖らせる。

「……何、コイツら知り合い?」

その問い掛けに、なまえはふいっと目を逸らして答えた。

「…知りません」
「…ふぅん」

納得していないような表情ではあるものの、一応といった様子でベルは頷く。
そんなことはお構いなしにルッスーリアが明るくハシャいだ声を出した。

「なまえちゃんも早くあがってらっしゃいよ!」
「…えー」

彼女の顔には、はっきりと「めんどくさい」と書かれていた。ザンザスが鋭い眼光でなまえを見据えた。

「…来い」

ザンザスが言うならば仕方がない、となまえはため息を吐いてから、脚に力を込めて上に飛ぶ。

「遅ぇぞぉ」
「すみません」

それから、リング戦の説明が続いている間、彼女はずっと眠気と戦っていた。気を抜けば船を漕ぎそうな頭を、ふるふると振って何とか醒ます。話の内容など頭に入るはずもなく、また聞く必要もない。ただ、綱吉たちと目を合わせないようにしていた。チラチラと視線は感じたものの、彼らも話を理解するのに必死だったようで、なまえを気にしている余裕はなさそうだった。ふ、と安堵のようなため息が漏れた。

チェルベッロ機関なる2人組が去った事で、なまえは話が終わったことを察した。背を向けて歩き出すヴァリアーの面々に続こうと足を踏み出した時、綱吉に呼び止められた。

「ねぇ…君! えっと…なまえ…?」

振り返り、無表情で綱吉を見つめる。その瞳には睨むような色も興味のような感情もなく、何の感情も浮かんでいない。一瞬怯む綱吉に、なまえはわずかに微笑んでみせる。

「…何か?」
「いや…えっと、その…」

言いよどむ綱吉を見つめ、その横の獄寺からの鋭い視線を受け流す。

「なまえちゃーん、早く来なさいよ〜」

ルッスーリアが呼ぶ声になまえは振り返り、小走りでヴァリアーに追いつく。
後ろから呼び止められたような気もしたけれど、無視した。

「何してたんだい?」
「…別に何も」

マーモンの問いに小さく答えて、なまえは欠伸をかみ殺しながら彼らと共に歩き出した。

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