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Diary

 挫折した

この日は、珍しくボンゴレ本部にザンザスの姿があった。今まで、九代目からの呼び出しを尽く無視してきた彼だったが、今回彼の所属する独立暗殺部隊の予算拡大を条件に提示され、渋々足を運んだのだ。

ノックもせずに九代目の部屋の扉を開けた瞬間、ザンザスは自分の額に青筋が浮かんだのを感じ取った。その元凶となった相手は、悠々とソファに腰かけて紅茶を飲んでいる。そして、ドアを開けたまま固まっているザンザスを見て、不思議そうな声を上げた。

「そんなところで何立ち止まってるの? 早く入っておいでよ」
「……何でテメェがここに」
「ザンザスくんが来るって聞いたから、急いで仕事を終わらせてきたんだ」
「帰れ」
「久しぶりだっていうのに随分つれない態度だなあ。そんなんじゃお姉さん泣いちゃうよ?」
「死ね」

チッと大きく舌打ちをしつつ、部屋の中を見回す。

「……ジジイは」
「ああ、ボスならさっき出て行ったよ。『後はお若い二人で』って―――ああ嘘! 冗談だから! ごめんって!」

彼女は俊敏な動きでソファから跳ね起きて、踵を返したザンザスの上着の裾を掴んで止めた。眉間にしわを寄せた彼を無理やりソファに座らせる。

「ほら、そんな怖い顔しないで。何か飲む?」
「…テキーラ」
「昼間からお酒は良くないよ」

ザンザスの言葉をあっさりと却下し、彼女が持ってきたのは紅茶だった。彼の盛大な舌打ちも、きっと彼女には効いていないのだろう。



昔からこうだった。
ザンザスが九代目に引き取られる前からファミリーにいたらしい彼女は、大して年も違わないくせにやたら姉のように振る舞いたがった。

「弟ができたみたいだ」

そう言った彼女は、ザンザスといるときはいつも穏やかに笑っていた。彼はそれが気に入らなかった。
泣かせようとしたことも、怒らせようとしたこともあった。手を上げたことはないけれど、暴言も無視も、何度かしたことがある。それでも、悔しくなるくらいにいつだって、彼女は笑みを絶やさなかった。その笑顔が嫌いだったわけではない。ただ、その顔色を変えられるのはいつも自分ではない他の誰かで―――特に、「ボス」と呼び慕う九代目と話すとき、彼女はいつだって表情豊かだった。

自分が何をしても、楽しそうに笑うだけの彼女に。
そんな彼女の表情をいとも簡単に変えられる九代目に。
彼女に対して強く出ることができない自分に。

ずっと腹が立って仕方なかった。「かわいい弟」なんて、そうありたいと思ったことは一度もないのに。



「おーい、ザンザスくーん」
「…あ?」
「お姉さんの話聞いてる? ボス急用ができちゃって、ちょっとだけ遅くなるってさ」






ここで挫折した
2013/08/26 18:08

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