▼ ほら、せっかく
「はしたないぞ!」
澄んだ声が、屋上に響き渡った。
思わず全員が声の方へと顔を向ける。
そこには、形のよい眉を吊り上げて、アーデルハイトを睨む少女がいた。彼女は他の人間に目もくれずに、ずんずんとアーデルハイトに向かっていく。
「鈴木アーデルハイト!」
ビシッと突き付けられた指の鋭さに、アーデルハイトも思わずたじろいだ。
「そんなふうに下着を見せびらかすなんてみっともないとは思わないのか!」
「なっ……貴様、アーデルハイトの華麗なパンチラを愚弄するか!」
「ハッ!」
すかさず反論する紅葉を、彼女は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ただの馬鹿でなく低俗バカとは恐れ入る」
「何だと?!」
「あんなパンチラに鼻血なんぞ出す奴を低俗と言わずして何と言う? いいか、よく聞け」
紅葉の視線を真っ向から受けながら、彼女は力強く言葉を紡ぐ。
「パンチラは、見えるか見えないかっていうギリギリのラインが1番そそるんだ!」
高らかに。
伸びやかに。
唄うように。
彼女はそう言い放った。
「…………………は?」
空気が固まる。
綱吉や獄寺は、いつものことだと、呆れたように小さくため息を吐いた。
「むしろ見えたら萎えるんだよ! 『見えるか見えないか』で『見えない』のが良いんだよ!」
許しがたいとでも言うようにわなわなと体を震わせ、拳を固く握って力説する。
「ていうかチラリズムならパンチラより腹チラの方が断然萌える! なあ綱吉くんもそう思うだろ!?」
「えっ!? お、俺!?」
「テメー! 十代目に妙な話題を振るんじゃねぇ!」
「大体、パンチラを楽しむためにはまず美脚であるという前提が必要になるだろ!? だが腹チラならそれ単体で萌えられる! 下着なんか見て何が面白いんだ! ならデパートの下着売り場で十分だろうが!」
叫んだ彼女に、紅葉が鋭く反論する。
「それは違う!」
「何!?」
「下着売り場はオープンすぎる! 結局あれはむしろモロであり、チラリズムではないのだ!」
「……はッ!」
気が付いたように口元を抑えた少女に、紅葉が嘲笑うように口角をあげた。
「そのような基本的な事柄を見落としている貴様には、結局チラリズムを語る資格などないわ!」
「…くっ」
悔しそうな顔をして、屋上に膝をついた少女。
紅葉は眼鏡を押し上げ、少女に歩み寄る。
「だが…」
顔を上げた少女に、紅葉は笑って手を差し出した。
「チラリズムにおいて、敢えて『腹』という部位を選んだその観点……貴様も結局なかなか見所がある」
少女は驚いたようにその手を見つめ───その手を固く握った。
友情が生まれた瞬間だった。
「……で、俺たちはどうすればいいの?」
げんなりとした調子で呟いた綱吉の言葉は、誰の耳にも届かなかった。
紅葉くんは好きなんですが、よく分かりませんな。まあ「結局」って言わせておけばいいかなって←
2011/12/29 02:37