memo | ナノ

Diary

 本日のゆめ

世界は二種類に分けられる。

即ち───私とそれ以外。

家族だって所詮は他人。

誰にも私の気持ちなんて分からないし、私は誰の気持ちも分からない。










───はずだった。










「やばい、今日の数学当たるんだけど! 予習やってない!」
「えー、そう言いながらいつも出来るじゃん!」
「そんなことないってー」

休み時間の教室に、ありがちな会話が飛び交う。笑顔のやりとりを聞きながら、私は気持ち悪さを抑えきれなかった。
親しげな雰囲気。笑顔。言葉。見て、聞くだけならば普通の友達同士の会話なのに。

(そりゃあ、あんたと違って私は頭が良いからね)
(予習しなくても出来るって言わせたいだけでしょ)

本音が流れ込む。表面上の親しげなやり取りとは違う、毒のある言葉。

吐き気がする。

「髪型変えたんだねー! かわいー!(普通に似合わないし。ウケるんだけど!)」

吐き気がする。

(早く昼になんねーかなー)
(コイツって俺のこと好きなんじゃねえ?)
(仮病使って早退しようかな)
(学校爆破してえ)
(超しつこいんだけど。私が好きとか勘違いしてんじゃないの?)
(死にたい)
(ホント馬鹿ばっか)
(サボりたい。家帰りたい)
(やだ、枝毛ある)
(だる)
(眠い、マジ眠い)
(どうしよう! 理科のテスト返ってくる!)

吐き気がする。

知りたくもない他人の本音が、ある時から何故か流れ込んでくるようになった。放つ言葉との矛盾、気持ち悪い想像。知らなかったことを知るたびに私は他人を信用できなくなった。みんな、嘘吐きばっかりだ。







「今日は抜き打ちテストだー」
「「「えー!」」」

先生の言葉に、クラスの声がハモる。

(うぜえ)
(何で今日だよ)
(死ね! マジ死ね!)
(先生は今日も格好いいなあ)
(よゆー)
(マジ学校爆破してえ)
(死んだ)

吐き気を堪える。耳を塞いでも聞こえる罵詈雑言。先生に向けられているその言葉が、まるで自分に向けられているかのような錯覚。

「どうしたの?(さっさと受け取ってよ)」
「あ、ご、ごめん」

テスト用紙を慌てて受け取る。添えられた思念にまた吐き気を覚えた。

「よーい、始め!」

(うお、初っ端からわかんねえ)
(難しい)
(このxに代入して…)
(これが5だから、こっちが3だ!)
(寝よう)

問題を解きながらも、カンニングをしているような気になる。気にしないようにしたって、思念は留まることなく流れ込み、どろどろとした吐き気を私の中に残していくのだ。頭の良い人の考え方、悪い人の試行錯誤、寝ている人の夢。吐き気を抑え、手だけを動かす。額に気持ち悪い汗がにじむ。
長い長い50分間を終えてようやく解放され、大きく息をついた。

「どうだった?」

笑顔で話しかけてくる友達。

「普通、かな」

何とか笑顔を返した途端に、

(うぜえ)
(死ね)

蘇る。

「───ッ!」

吐き気。勢い良く席を立ち、トイレまで走った。その間も、絶えず思念が流れ込んでくる。

(上履きに穴あいてる!)
(腹減った)
(ほんとに髪サラサラだなあ)
(頭痛い)
(さわるな)

「ぉえっ」

吐いた。
吐いても吐いても吐き気は収まらなかった。

足音がした。

「おーい、大丈夫? 生きてる?」
「急に出てったからびっくりしたよー」

友達の声。4人いる。

「だい、じょう……ぶ、…っぅぇ」

(さっきから顔色悪かったし…)
(全然大丈夫じゃないわね。保健室連れてったほうが良いかも)
(つらそう)

京子、と花は心配してくれてる。りっちゃんは、他人事みたいだけど…、のんちゃんは。

(心配してほしいだけじゃないの)

「───ッ…ぉぅえっ」

またこみ上げてきた。酸。喉が痛い。吐くものはもう胃液しか残っていないらしいのに、吐き気は一向に収まらない。

「ほんとに大丈夫?」

胃液を無理やり飲み込んだ。個室のドアを開けると、少なくとも表面上は心配そうな表情の4人がいた。

「保健室、行く?」
「…か、える」
「じゃあ鞄持ってくるね。ここで待ってて!」
「私も先生に伝えてくる」

京子とりっちゃんが走っていった。花が背中をさすってくれた。

「死にそうな顔してるわよ。何か悪いものでも食べたの?」

首を振る。のんちゃんが顔を覗き込んできた。

「大丈夫?(大袈裟に騒ぎすぎじゃないの?)」

嫌だ。知りたくない。聞きたくないよ。
逆流する胃液を飲み込んだら、涙が出てきた。






どう頑張っても暗くなりそうな話^∇^
2011/09/25 12:33

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