真実と兆候



 その、まるで自嘲したような憂いの残る表情で笑顔を作りながら、彼は口を開く。

「僕の魂は長らくあそこにあった十字架に封印されていたからね……今回の火災であれが壊れたことによって、こうして生き長らえることも出来た。……言ったらいけないんだろうけど、良かったって思ってるよ」

 美好がそこまで言ったところで、しかし「ちょっと待て」と、今まで黙っていた香野が声を上げた。

「そうだ、噂の方は結局どうなんだよ。町ではお前が人間を襲った、とかっていう被害がたくさん出ていたんだぞ」

「あぁ、あれ?別に大したことはないさ。ちょっと夜になって力が戻った時に、この子の体を借りて脅かしてやっただけ。別に襲ったりなんかしてないよ。だって……僕のことがバレたら、みんなだって困るだろう?」

 そう言い彼は立ち上がると、「さぁて、僕は久しぶりに隊のみんなに挨拶しに行ってくるかな」と言い残して部屋を後にしてしまった。

 残された三人は、一様に美好の去った扉の方を見やる。

「そういうことだったのですか……」

「まぁ、こうしてあいつが無事に戻ってこられただけでも良かったさ。……さぁ、私達も長旅で疲れてることだし、そろそろ解散するとしよう」

 珀憂の言葉で、三人も美好を追うように会議室を後にした。

 すると開け放したままの窓から、どこからやってきたのか一羽の烏が入り込み、三人が出ていった扉を見つめる。

 その烏は首を機械的にかしげたりしながら、その全てを見透かしたような瞳で言葉を紡いだ。

『……今回の一件でラグナロクは本格的に動き出しましたよ……。はてさて、君達がそんなんで、これから本当に大丈夫なのかい……?』

 彼はそれだけを言い残すと、ばさりと翼を広げその場を飛び去っていく。

 後には一枚の羽がヒラリと宙を舞い、煌々と光る朝焼けの中に消えていった。


coming soon...




  



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