神憑の兄弟



 するとその木々の隙間から一人の青年がこっそりと様子を伺うようにして出てき、恐る恐るといった様子で辺りを見回した。

 年頃としては香野と同じぐらいに見えたが、決定的に普通の人間と違うのは、その両手が獣のそれに変異していたことだろう。そのことが、青年が先天性の神憑だということを物語っていた。

「もしかして……姉さん、最初から気づいてた?」

「当たり前じゃない。全く、後で怒られるのは私なんだから……」

 杞微は焔華の隣にトテトテと走ってくると、彼の隣にくっつくようにして立ち止まった。

 一方の焔華はこれ見よがしな溜め息を吐き出すと、次いで未だ緊張状態の二人にニヘラと笑いかけ、

「それじゃあ今日は様子見だった訳だし、オマケにこの子まで着いてきちゃったことだから帰らせてもらうわね。お二人さん、また近いうちに会いましょう?see you」

「ごきげんよー」

 そんな二人の周りを、再び焔華の炎柱が包み出す。

「あっ、おい、待て!」

 だが、そんな香野の制止も虚しく、その火柱が消えた頃には二人の姿は既に消え去っていた。

「ちっ、逃げられたか」

「全く、手加減されてたんだねー、どおりで弱いと思ったー」

 美好が口を尖らせながら呟き、戯遊の祝典を鞘に収める。

「……」

 彼はゆっくりと後ろに振り返ると、段々とその形を失い始めている屋敷を見つめる。

「旦那様……」

 それでもなお、屋敷はまだごうごうと燃え盛っていた。




  



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