結晶
美好が見せたそれ。
それはテナーバストロンボーンと呼ばれる金管楽器の一種であり、上部に付いているロータリーレバーで音程を変える事が出来るという便利な代物だ。
しかし、普通なら金や銀が主流といったトロンボーンなのだが、美好のそのトロンボーンは、何故か血のように“紅い”色をしていた。
「これね……僕の体内にある血の結晶みたいなもんでさ。だから真っ赤な色をしてるんだよねぇ」
久方ぶりに見るそのふざけたような名前の武器に、香野も心中で首を傾げる。
――前から思ってたけど……貧血になんないのか?
そんな香野の心の声などは無視するかのように、美好は熱心にスライドの動きなどをチェックしている。
「演奏会でもしてくれるのかしら?というか、そもそもそんな武器で勝てると思ってるわけ?」
「あぁ、もちろん思ってるさ!なにせ……」
そう言うと美好はトロンボーンをゆっくりと肩に担ぎ上げ、音の出先の照準を焔華へと合わせる。
「はい、ドーン」
彼は本来音程を変える為に作られたロータリーレバーに指を掛けると、ためらいなくそれを押した。
すると何ということだろうか。そのレバーを押した瞬間、それはまるで拳銃のように、音の出口であるベルの中から弾を弾き出したではないか。
「っ!?」
焔華は突然のそれを紙一重で回避すると、すぐに体勢を立て直して美好の方へと低く跳躍する。
――なるほど、あのベルは銃だったって訳ね。それなら近距離での戦闘に持ち込めば……
「これで……!」
避ける様子も無く、呑気にベルとスライドの結合部分のリングを外す美好に向かって、焔華は渾身の一撃で白刃を降り下ろした。
だが、しかし――
「なっ……」
「残念でした〜」
不敵に笑う彼は、どこか楽しそうで。
いつの間にか美好の手にあったトロンボーンのスライドが外れており、まるでそれは鞘に収まっていた日本刀のように、二つの銀色の煌めきで焔華の刀身を受け止めていたのである。
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