吸血鬼の晩餐会
半壊した屋敷の頂点には、今や毒々しい程に赤く染まった満月が煌々と花を咲かせており、それが美好の金色になびく髪を一際煌びやかに際立たせていた。
「改めまして、こんばんは。今宵の月は、また一段と綺麗な紅い色をしているねぇ。嗚呼、あぁ……っまるで、僕等のこの運命的……いや、必然的でしかないこの出逢いを、墜ちること叶わぬただの宇宙の雑踏でしかない星屑達が賞賛しているかのようじゃないか……!」
大仰に両腕を広げて語る美好を前に、焔華は徐々に二人から距離をとっていく。
今の美好の服装は黒を基準とした造りをしており、薄手のマントの下には銀に輝くベルトにキュロットという、おおよそ年頃の少年には合わぬ服装をしており、その姿は使用人の頃の面影は一寸たりとも残してはいなかった。
しかしそれは特別この場に不似合いだという訳でもなく、逆にそれは彼の醸し出す雰囲気と見事にマッチしていたとも言えよう。
さすが自称男の娘。
「なるほどやっぱりしぶとい訳だわ。てっきりさっきの爆発で死んだとは思ったけど」
「ふふ、それは褒め言葉?いや、褒め言葉として受け止めよう!」
距離を開けた焔華に対して、今度は美好の方が距離を詰めようと香野の方へ歩いていく。
「さぁ『イクトミ』、いや、今は香野クンだったっけ?まぁいいや。見たところ、どうやら君はあいつと戦うには分が悪いようだし、ここは一つ選手交替といこうじゃないか」
彼はそう言って笑いかけたが、一方の香野はきょとんとした顔をして、
「お前、本当に美好……なのか?」
「あぁ、もちろん」
「……男だったのか……」
「……そういう女の子大好きなとこ、相変わらず変わってないよね」
美好は楽しそうに笑うと、通りざまに落ち込む香野と軽いハイタッチを交わす。
「待たせたね。それじゃあ、ここは晩餐会らしく、楽しい愉しいダンスパーティとでも行こうじゃないか!」
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