グレイプニル騎士団四番隊隊長



「ちっ、ちょこまかと動きやがって!」

「えー、だって、それに当たったら痛いでしょう?」

 香野が二丁拳銃で応戦する中、焔華はそれら全てを剣で弾きながらも段々と自分の間合いを詰めていく。

「そんな一本調子じゃ勝てないわよ?」

「っ、あぁそうかよ!んならこれでもくらいな!」

 そして香野がそう叫ぶと同時に彼の足元を基準に蜘蛛の巣が現れ、粘着質なそれは段々とその範囲を広げていった。

「やだ、ちょっと何コレ!?」

 焔華の足元にまで伸びた糸は足に絡み付き、いくら力を入れて引っ張っても取ることが出来ない。

 それをいいことに香野は、二つの銃の照準を焔華に合わせた。

「残念だったな」

 ――これで終りだ!

 銃を握る手に力が入る。

 そして香野が引金を引こうとしたまさにその刹那、突如として辺りの空気が一変した。

「しょうがないわねぇ」

 そう呟いた焔華のルビーの目に紅い光が灯り、その周りから轟音と共にに炎が燃えあがる。

 それは豪々と辺りに広がっていき、急速に蜘蛛の糸を焼き切っていった。

 自由になった焔華は撃ち放たれた香野の銃弾を軽々と躱すと、そのまま地を蹴って跳躍を始める。

「なっ……んのやろ!」

 香野が上に向けて銃弾を放つものの、全て剣によって弾き返されてしまい、焔華に届きさえしない。

 結果として、彼はそのまま落ちてきた彼の剣を両手の銃身で庇う結果となってしまった。

「あら、ずいぶん余裕無いんじゃないの?もっと楽しみましょうよ」

「うっせー黙ってろハゲ!!」

「は……ハゲてないわよ馬鹿!」

 香野はどうにか焔華を跳ね返すものの、バランスを崩して後ろに倒れ込む。

 ――やべ……!

「チャーンス♪」

 また向かってきた焔華の剣が、香野の心臓を抉ろうと牙を剥いた。

「また来世で逢いましょ?」

 そしてそれがまさに彼の胸に直撃しようとしたその瞬間――二人の間を風が吹き抜けた。



「嗚呼、これはこれは。どうやらピンチのようだねぇ、『イクトミ』?」



 燃え盛る屋敷の屋上、月の光に照らされて輝く人影が、なにやら楽しそうに声を上げる。

 その声にピタリと止まった焔華は眉間に皺を寄せると、そのまま不機嫌そうに剣を戻した。

「なに、アンタ?こいつの仲間?」

「あれは……」

 ――あの声は、どこかで聞いたような……

「……まさか!」

 香野がガバッと起き上がり、焔華をはね除け後退する。

「そう、そのまさかさ!では、改めて自己紹介といこうじゃない、か☆」

 その腰まである、結ばれた“金色”の髪を揺らすと、“彼”は屋根から炎広がる庭へと飛び降りた。

 そして、着地と共にキメポーズ。

「僕はグレイプニル騎士団四番隊所属、『ヴァンパイア』の“美好”!ただのしがない吸血鬼の“男の娘”さ!」




  



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