業火と女怪
「どういうことだ……!?」
急いで香野が屋敷の方へと戻ると、既に炎は屋敷全体に燃え移っている段階であり、このままではとても中には入れそうにない。
――一体何が起こって……
「あら?なーんだ、もう外に出てたの」
「!」
突然の声に香野が振り返ると、そこには貴族の衣装を見に纏った白い長髪の男が立っていた。
「んふっ、お昼ぶりね。ぼ・う・や?」
「お前は……!」
「あら?なにまだ気づいてないの?そうよねぇ……今は性別も違うし、最後に会ったのももう転生前のことだしね……」
男はそのままゆっくりと近づいてくると、香野のことを見下ろしながらニヤリと笑い、話を続ける。
「私よ、私。そうね……『キマイラ』って言えば分かるかしら?まぁ、今は焔華(エンカ)っていう名前があるんだけど」
「っ!キマイラ……!?」
ラグナロクの使徒『キマイラ』。それは、自分達が倒さなくてはならない絶対的な敵のうちの一人。
「そうそう分かった?まぁ確かに、前とは全然違うから無理も無いか」
そう言って焔華は香野から離れると、クルクルと回りながらそのルビーの瞳で焼け落ちていく屋敷を映していく。
相手がラグナロクの使徒ということが分かったためか、香野も臨戦態勢として両手に銃を取り構えた。
「中にいた人達はどうなった……!」
「……あぁ、そっちも分かってなかったんだ。あんた達だって話してたじゃない、あの“神憑の男”と。多分今の爆発で粉々に吹き飛んだんじゃない?」
「!それってまさか……!」
――鈴梦のことか!
焔華は不敵に笑うと、やれやれといった調子で鞘から細身の剣を抜き取る。
「そのま・さ・か。私ちゃんと外から見てたんだからね?」
「でも、なにもここまでする必要は無かったはずだ!」
「なによ熱くなっちゃって。私が何をどうしようと勝手でしょー?」
やれやれと首を振る焔華に香野は両手の銃の照準を合わせる。
「なぁに?血気盛んな子ねぇ……」
「うっせ、今はちょっと虫の居所が悪いんだ。いいから大人しく的にでもなってろ」
「んー、いいわ!じゃあ特別に、お姉さんが相手になってア・ゲ・ル☆」
冷たい光を帯びた剣が、香野に突きつけられる。
そして焔華のその言葉を弾みとし、香野は地を蹴り駆け出した。
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