その十字架、空へ掲げられたり。



 二人と別れた香野が廊下へ出ると、先に待っていた美好がこちらへ、と彼の前を先導し歩き始めた。

「すまねぇな、手間かけさせちまって」

「いえ、少しでもお役に立てるのであれば私も嬉しいですから」

 美好はそう言い、顔だけを後ろに振り返らせて笑う。そしてそれからまた少し歩いたところで、彼女は立ち止まった。

「こちらの部屋になります」

「ここか……」

 突き当たりにある階段を降りきった所で二人を待ち構えていたのは、とても頑丈に閉ざされた巨大な鉄製の扉。

 美好はガチャリと鍵を開けると、錆び付いたそれをゆっくりと押し開けた。

「では私はこちらで控えているので、香野様は中へどうぞ」

「あぁ、分かった」

 美好が微笑む中、香野が部屋の中へと足を踏み入れる。

「こりゃー本当にでっけーなー……」

 昔は教会として機能していたということが分かるこの空間には、奥には巨大なステンドグラス、そして前方にはマリア像がそびえ立っている。

 問題の部屋の一番奥に飾られていたその十字架は、見たところ軽く香野の三倍の大きさはあり、所々ひび割れているように見受けられる。

 触れてみると長年放置されていたせいか、埃が手にこびりついた。

 ――見たところ、怪しい所は無さそうだな……

 とりあえずそのまま何度も触ったり叩いたりしてみたものの、特別もろくなったり仕掛けがしてあるという訳ではないようだ。

「ありがとう、美好。後は大丈夫だ」

「あ、はい。それでは玄関まで案内いたします」

 一通り調査を終えた香野は、廊下で待っていた美好に連れられ屋敷を出ることとした。




  



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