屋敷の主と使用人



「ほう、あんたらがグレイプニル騎士団か。これはこれはわざわざ遠くの国からよくいらしたもんだ」

 三人が広間へ案内されると、その奥のソファに座っていた男がこちらへ向けて話しかけてきた。

 彼は当主と言ってもまだ二十代半ば程と若く、髪も金色に染められており、どう見てもそうは見ることが出来ない。続いて使用人も彼の横へと移動し、こちらに視線だけを向ける。

 先ほどは分からなかったが、改めて見てみると彼女はとても端正な顔立ちをしており、腰まで伸びた茶色の髪が何より綺麗で美しかった。

「私は騎士団長を務めている珀憂と申します。こちらは香野と雅です」

「これはどうもご丁寧に。俺は鈴梦(レム)、ここの屋敷の当主だ。おい美好(ミヨシ)、何をボサッとしている。お客様に茶でも出したらどうなんだ」

「は、はい!」

 美好と呼ばれたあの使用人がバタバタと裏へ駆けていくと、鈴梦が三人に座るように促す。

「それで……そのお偉い騎士団様が俺に一体何の用なわけ?」

 ずいぶん上からな物言いに、香野は何か言い返そうとしたが、そこをグッと堪え珀憂と鈴梦の話を聞くことにする。

「えぇ、では早速本題に入らせていただきますが……最近このあたりで“吸血鬼”が出たとの情報が寄せられました。何か心当たりなどはありませんか?」

「ほう、吸血鬼か……そういや町の人間がこの前何やら喚いていたが、そういうことか。しかし珀憂さんよ、残念ながらここには俺と美好しか住んでねーし誰もかくまっちゃいねぇ。なんなら確かめてみてもらっても構わねぇが……俺らを疑ってるっつーんなら多分お門違いだな」

 そう鈴梦が言った所で、美好がトレイに乗せた紅茶を運んできた。

「……またダージリンか」

「すみません、これしか無くて……」

「ふん、まぁいい。お前は下がれ」

「あ、はい……」

 美好がシュンとしながら鈴梦の隣に戻る。

 すると当の鈴梦が、何かを思い出したかのように声を上げた。

「そういや吸血鬼と言えば、この屋敷は昔は巨大な聖堂でよ。俺のじいさんがくたばるまでは使われてたっつー話だ。……確かそん時に飾ってあったっつーでっかい十字架が確か今でも倉庫にあったはずだな」

「十字架……」

 それを聞いた香野が何やら考え込む。

「しかし、それは本来吸血鬼とは相性の悪い物。そんな十字架が今でもあるとすれば、逆にこの辺りに出没するというのはおかしいんじゃあ……」

「やはり噂にすぎなかったのでしょうか」

「どうだろうな……仕方ない、今日は一度戻って、情報をもう少し集め次第改めて出直すとしよう」

 珀憂がそう言い立ち上がると、続いて香野と雅も立ち上がる。だが、香野は少し遠くにいた美好を手招きすると、

「なぁ美好……だっけか。ちょっとその十字架っての見せてもらってもいいか?一応参考までになんだが」

「え、ええ……旦那様がよろしいのなら」

 美好がチラッと鈴梦を見やる。

「俺は構わん。案内しろ」

「あ、はい、かしこまりました」

 香野の突然な申し出に美好は一瞬困惑したものの、鈴梦の許可が出たこともあり案内のため、一足先に廊下へと向かう。

「っつーことだ。雅と珀憂は先に戻っててくれ。道は大体覚えてるからよ、大丈夫だ」

 自信気に胸を叩く香野に雅は分かりきったように苦笑すると、隣の珀憂の肩に手を置いた。

「……分かりました、ではくれぐれもお気をつけて。さ、行きましょう珀憂」

「あぁ、何か変わったことがあったらすぐに連絡するんだぞ」

 珀憂の言葉に香野は頷くと、ヒラリと右手を上げて美好の元へと向かって行った。




  



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