ノルンの国の王子様



「ねぇ、珀憂……」

「?どうした」

 突然現れた遡琉の登場に、既に珀憂から離れていた暮哭は不思議そうに首を傾げる。

「あの香野と言い争ってるのは……新しいお友達か何かかしら?」

「あぁ、彼か」

 そこで珀憂は合点がいったように遡琉の方へと視線を寄せると、「友達か……」と少し苦笑をしながら目線はそのままに言った。

「あの方は、つい先日まで私達が任務に出向いていたノルンの国の王子殿だ。まぁ、今は療養中だがな」

「あら、王子様だったの?」

 彼の言った通り、遡琉は現在療養中の身であった。

 とは言うと、先の戦いの際に来夏の銃弾を受けた傷はまだ癒えていなく、今も服に隠れて見えないが腹部には堅く包帯が巻き付けられている。

 現在ノルン王国は彼らによって一部破壊された城の復旧工事や、纉抖が侵入する際に傷を負った兵士達の治療も含めて再建には少し時間が掛かりそうにも思われている。

 そんな城の現状を見てか手負いにも関わらず作業を手伝おうとする遡琉を見て、身を案じた百埜が慰安旅行を兼ねて暫くの間兄を香野達に託したのだ。

 そして暮哭の言葉が聞こえたらしい遡琉は香野からそちらの方へと視線を替える。

「あまりその呼ばれ方は好きじゃないんだ。というか……そろそろ中に入らなくていいのか?報告しなければならないことがあるだろう」

「あぁ、そうだった。早くジジイんとこに行かねぇと!こんなとこで油うってる暇はねぇっての!」

 遡琉の言葉にここが屋外だということを思い出した彼らは、香野の声を筆頭に急いでオリーブの中へと戻るのだった。




  



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