拡張された噂
「本当に先程は……突然逃げ出してしまったりして申し訳ございませんでした」
屋敷の内側は思ったよりも広い造りとなっており、壁にはたくさんの高価そうな肖像画や絵画が飾られていたが、どれも皆色褪せて埃を被ったようなものばかりに見える。
「いや、別に気にしてはいないから大丈夫だ。……だがしかし、どうして君達はあの時逃げたりなんかしたんだ?」
「それは……」
珀憂の問いかけに彼女はふと歩みを止めると、そのまま遠慮がちに言葉を続けた。
「私を除いたあの四人は、つい最近この屋敷の近くで吸血鬼の被害にあったんです」
「!それはどういう……」
「詳しくは分かりません。ですが……そのことがきっかけで町にも噂が広がって、ついには討伐隊まで結成されるようになってしまいました」
彼女は怯えたようにそう言うと、またゆっくりと歩みを再開しながら語っていく。
「町の人々は吸血鬼を探すために森までやって来て、酷い時にはこの屋敷にまで来ては荒らすだけ荒らして帰ったこともあります。ご親族を全て事故で亡くしてしまった旦那様は、元から町の人とのかかわり合いを避けるために一人でこの屋敷に住んでいたということもありますし、噂されるということもおかしくはないのでしょう」
「だから町で聞き込みをしている私達を、そいつらの仲間と勘違いしたと……」
「えぇ……本当に失礼なことをしてしまいました」
そこまで話し終えた彼女はある一室の前で足を止めると、くるりと後ろに振り返りフワリと三人に微笑みかけた。
「さぁ、着きました。ここが旦那様のお部屋になります」
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