ルビーの瞳



「あぁ、おかえりなさい、珀憂。どうでしたか?」

 戻ってきた珀憂に、ベンチに座っていた雅が話し掛ける。

「あぁ……そうだな、特に何も新しいことは聞けなかったよ。まぁ既に情報は集まっているわけだし、どのみちもうこの辺で大丈夫だろう」

「そうですか……」

 彼の言う通り、朝から行っていた情報収集の甲斐もあってか、既に必要な情報はほとんど集まっている。

 そしてそれらを聞いて分かったことは、目的地では森の中にある屋敷ということ。そして例の吸血鬼は昼間には現れないということ。

 残るは捜索のみ。

「さぁ、もう行こう。日が暮れる前には屋敷の方へと伺いたいからな」

「えぇ、そうしましょうか。さ、行きましょう香野」

「おう」

 香野は短く返事をすると、先に歩き出した二人に続こうとゆっくりと立ち上がったのだが――

「うぉっ!」

 その際にやって来た人間とぶつかってしまったためか、反動で少し後ろによろけてしまう。

「……あら?」

 女性だろうか、長い白髪に赤い瞳。

 高いヒールを履いて初め驚いたように彼を見つめていたその人は、次いで香野の顔を見ると不敵にニコリと笑う。

「すまねぇ、ちょっとよそ見して……っ!」

 そして謝罪の言葉と共に香野が顔を上げた瞬間、彼は言葉を失った。

「お前……!」

 目が合った瞬間に背筋を駆け巡る悪寒と恐怖心。炎のようにギラギラと燃え上がるその瞳は、まるで獲物を見つけた獅子のように立ち尽くす自分を映している。

 だが、彼女――いや、“彼”はすぐに顔を弛ませると、香野の頭に手を置いて、

「全く……ちゃんと前を見て歩かなきゃ駄目よ、坊や?」

「だ、誰が坊やで……!」

 思わず香野が反論を示すものの、男は楽しそうに笑うとヒラヒラと手を振り去っていってしまった。

「なんだったんだ、今のは……」

「香野、どうかしましたか?」

 いつまで経ってもやって来ない香野を心配した雅が戻ってきたのだが、香野は何でもない、と横に首を振ると、もう一度だけ彼が去った方を見ながら、

「ちょっと……変な奴に絡まれただけさ」

 と言ってまた歩き始めた。




  



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