漠然とした不安



―翌日―

 日が昇り、既に正午を迎えたターラの町は、夜に訪れた時よりもまた一段と華やかな活気を帯びており、遠くに見える教会では先程鳴らしたばかりの鐘がゆらゆらと揺れているようにも見えた。

 一時の休息を終えた三人は、現在正確な場所の把握と共に噂に関することを住民に聞いて回っており、確かに情報は集まっては来たのだが――これが中々に苦労する。

「もー疲れた!ちょっと休憩しようぜ、休憩!」

「休憩って……さっき休んだばかりじゃありませんか。もう少し頑張りましょうよ、ね?」

「だってー……」

 ベンチに座り込んで文句を言い続ける香野に、雅はよしよしと頭を撫でながら先を促そうとする。

 しかしそんな二人を置いて今なお聞き込みを続けていた珀憂は、ふと木陰で談笑を楽しんでいる少女達の方へと歩み寄った。

 少女達の数は全部で五人。皆それぞれ仕立ての良い服を着ており、そこから彼女らが同様に育ちの良いことが伺える。

「すまない、少し訪ねても良いだろうか」

「えっ?あ、はい、なんでしょう……?」

 そのうちの一番活発そうな黒髪の少女が珀憂の方へと振り返り、声を上げた。

「あぁ、それが今この辺りで噂になっている吸血鬼について調査をしているのだが、それについて何か知らないかと……」

「吸血鬼!」

 その単語を聞いた彼女達の顔がみるみるうちに青くなり、一番奥にいた茶髪の少女に関しては、驚きのあまり目を見開くほどに硬直していた。

 そして先程の黒髪の少女はふいにガシリと珀憂の腕にしがみつくと、

「き、吸血鬼なら、あそこの教会から西に行った森の中にいるはずですから……!お願いです、あいつを退治して下さい!」

「?それはどういうことで……あ、おい!」

 彼女はそう言うと、手を離して一目散に駆け出して行ってしまった。

 残りの少女達も同様にその後を追い掛け去ってしまったのだが、あの茶髪の少女だけは未だ自分の方を見たまま震えるようにして立ち尽くしている。

「君は……」

「っ!ご、ごめんなさい!」

 少し不思議に思って話し掛けようとしたのだが、それより早く彼女は身を翻すと、まるで逃げるかのようにして教会の方へと走り出してしまった。

「……どういうことだ……?」

 やり場の無い不安だけを残したまま、珀憂は走り去る少女を見つめ、やがて香野と雅の元へと戻っていった。




  



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