失敗作の変異種



「皆さんにもそのうちお話するつもりだったのですが……仕方ありませんね。確かに戯宮、彼は私が作り出したクローンになります」

 雅は諦めたように、深い溜め息を吐き出しながら言った。

「しかし……どうしてまた、こんなものを……」

 珀憂の問いかけに、戯宮は「こんなものって!」と声を上げるが、雅は気に止めずに話を進める。

「まぁ言ってしまいますと、以前から見受けられてきたラグナロクの活発化……。これに伴いまして、少々気になることがありましてね……独断ながらに、我々化学班の中で偵察班を作ることにしたんです」

「なるほどな。で、これが失敗作だと」

「失敗だなんて、そんなこと言っちゃ悲しいですよぅ」

「戯宮、あなたは黙っててください。香野も」

 雅が横目で睨むと、戯宮は「しょうがないですねぇ」と前に向き直る。香野に関しては頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

「しかしそのことが、一体どうして雅のクローンだということと関係があるというんだ。確かに顔はそっくりだが……」

「合成したんですよ」

 珀憂が投げ掛けた質問に、彼はふぅ、と一息つきながら答えた。

「戯宮は私のDNAと『ワタリガラス』のDNAを受け継ぐ変異種。まさに神憑の亜種とも言える存在なんです。ゆえに背中には……」

「黒い翼が生えてるんですよぅ。なんだか堕天使みたいで格好良くありませんかぁ?」

 調子づいた声で戯宮が背中に生えた小さな黒翼を指差し、これには少し香野が好奇心を示したのか恐る恐る翼に手を伸ばす。

 それは珀憂のものとは比べ物にならないほどに小さく、とても人一人支えられるようには見えなかった。

 そして予想以上に手触りの良いそれに彼は思わずもふもふと何度か撫でてみるが、やがて相手が相手だということを思い出して席に戻り、また二人の話に意識を戻した。




  



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