居心地が悪すぎる



「お前ら……そんなにも俺を無視して楽しいか……?」

「あぁ、すまねぇ遡琉!すっかり忘れて……って、痛いから剣先で突っつくなって!」

 馬車を降りてきたのは遡琉だった。彼は不機嫌そうに眉を潜めながら、片手に持ったレイピアで香野の背中を何回もつつく。

 たまらず彼は身をよじって逃げ出そうとするものの、細身の剣は執拗にその後を攻撃してくる。

 なおもイライラと機嫌の悪さを隠しもしないその表情の原因は、どうやら存在を無視されたこと以外にも何かあるらしい。

「大体、この馬車は揺れが激しすぎるというんだ!全く、だからこちらで馬車の一つぐらい手配しようと言ったのに……」

 遡琉はそう言ってすぐ、馬車酔いでもしたのか気持ち悪そうに口を押さえる。

「なんだよ、こっちはそっちの人手が足りないと思ってわざわざ“役立たず”のお坊ちゃんを運んでやったんだぞ!」

「なんだと貴様……!誰が役立たずだ。今すぐ口を謹め、そして正せ!さもなくばその腐った脳味噌ごと叩き斬ってやろう……!」

「ハッ、やれるもんならやってみろってんだよ」

 香野の言ったことが癪に触ったのか、遡琉は腰にしまいかけたレイピアを再び取り出し、今度は相手の頭目掛けてその切っ先を突き付ける。

 それに反応した香野までもが拳銃を引き抜いたせいで、まさにその場は一触即発といった状況となってしまった。




  



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