秘密の綻び



「おい雅、これはどういうことだ」

 珀憂が驚いたように問いかけるが、向かいに座る雅は未だ少し何かを言うのを躊躇っているかのように見える。

 一方の香野は状況が掴めていないのか、まだ交互に二人の顔を見比べていた。

「あぁ、それは……」

「そのことに関しては、私めが説明させて頂きましょう!」

 雅の言葉を遮り、戯宮が一歩前へ出る。先程と同様に、ニヒルなのが特徴の嫌な笑みだった。

「先刻もご紹介あつかりましたが、私は戯宮と申します。そうですねぇ、簡単に言うならば……」



「そこの、雅くんのクローンとなります」



「なっ……!?」

 あっさりと言い放たれたその言葉に、馬車の中がしん、と静まり返った。

 そんな空気にも関わらず戯宮はヒヒッと笑うと、ボロボロになったコートの袖越しに散らばったマカロンを一つ、口に放り込んだ。

「く、クローンって……それって違法なんじゃ……」

「えぇ、そうですよ。よぉく知ってるじゃありませんかぁ、香野くん」

 戯宮はドサリと珀憂の隣に腰を下ろすと、正面から香野の目を見つめ笑った。

「……なぁ雅」

「どうしましたか?」

 香野が隣の雅の袖を引っ張り、明らかな嫌悪感を顔に滲ませる。

「何か俺……こいつやだ」

「……こういう奴なんです。受け入れてあげて下さい」

 諦めたように言う雅に、香野は気にくわないと言わんばかりに顔をしかめた。

 だが、当事者の戯宮はそんな二人の会話を聞いてブッと大きく吹き出すと、何が可笑しいのか、腹を抱えて笑い出した。

「あっはははは!これはこれは、出会って早々嫌われてしまいましたか!いやぁ、これは失敬!何分、鳥頭なもんで後先考えずに口走ってしまいましてねぇ……我ながら傑作ですよ、そりゃあもう、ええ」

 彼は一頻り笑い転げると、その次には一変して開き直ったように大袈裟に肩をすくめて向き直って見せる。

「全く、アナタという人は……。では、そうですね。もうここまでバレてしまった訳ですし……改めて私の方から説明しましょうか」




  



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