不在の総裁



「それでは、これより会議を始める」

 凛とした男の声が会議室に響き渡った。

 グレイプニル騎士団総本部となる、通称『オリーブ』と呼ばれるこの建物の中にはいくつもの部屋が存在するが、その大多数は個人用の私室となっている。

 しかしその数ある部屋の中でも、この中央会議室にはその何倍もの人間を入れるだけの空間があった。

「しかし始めると言っても、揃っているのは三人だけか……」

 現在その広い会議室にいるのは、香野、雅、そして話を仕切っている眼鏡の青年――珀憂の三人のみで、それぞれ『伍』『参』『壱』という数字が彫られた椅子に座っている。

 この会議室には現在において各隊の隊長のみが集められているという訳だったが、なぜか『弍』と『肆』が書かれた椅子は空席のままだった。

 そしてもう一つ。『総』と彫られた椅子も、同様に空席のまま置かれていた。

「おい珀憂、元帥(ゲンスイ)はどうした」

「あぁー……そのことだが……」

 香野の質問に、珀憂が困ったように眼鏡を上げ、すまなそうに顔を反らす。

「すまない、また逃げられたようだ」

「ちっ、またかよあのジジイ」

 香野が浅い溜め息をついた。空いた席を見つめていた雅も、彼に続き小さく溜め息を吐き出す。

「そうですか……。まぁ彼が来ないことはいつものことですし、しかたがありません。とりあえず本題に入りましょう」




  



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