香野が去って静かになった部屋に残された雅は、一人考えを巡らせていた。
考え事をしている時の彼の癖なのか、頭の獣耳はずっと上下にピクピクと動いている。
「吸血鬼……ねぇ……」
彼はソファから立ち上がると、そのまま壁を埋め尽くす程の数ある本棚の前へと移動し、その中にある一冊を手に取った。
その本はかなり年期の入った厚い緑色の冊子で、所々染みになったり、掠れているのか字が霞んだり、中にはページ自体が破かれているところもある。
雅は懐かしむように次々とページを捲っていくが、しばらくするとふとある場所でその手を止めた。
「これは……」
そこに挟まっていたセピア色に劣化された写真を抜き取ると、彼は無意識のうちにふわりと破顔してしまった。
その思いは記憶を辿り、過去を巡る。
はたしてそれが自分の記憶なのか、はたまた他の誰かの記憶なのか……その時の彼には結局分かることはなかった。