白渦と白糖



「で、連絡って?」

 新しくコーヒーを淹れ終えた雅は、昔馴染みの仲間の名前に少し安堵感を覚えながら椅子に座り直した。

 彼はミルクを少量だけ水面に浮かべると、それをスプーンでかき混ぜ白い渦を作り上げる。

 一方の香野は、小瓶から取り出した角砂糖を七、八個コーヒーの中へと投入し、雅と同じようにスプーンでガチャガチャとかき混ぜながら喋り出した。

「あぁ、なんでも近いうちに、東にあるターラの町へと出向くことになったとのことだ」

「ターラの町?どうしてまたそんなところまで……」

「俺も詳しいことは分からないが……どうやらそこで、最近妙な噂がたっているらしい」

「噂……?」

 雅のカップを持つ手が止まり、反対に香野が新しく淹れられたコーヒーをすする。

 彼は雅の目を見据えながら言った。

「……聞くところによると、“吸血鬼”が出たそうだ」

「!」

 “吸血鬼”という単語を聞いた雅の目が大きく見開かれる。

 香野は苦笑を浮かべると、ため息混じりに続きを語りだした。

「そのまさかだろうな。未だに行方不明になっている俺らの仲間の『ヴァンパイア』……ま、本当にアイツがそこにいるのかは分からないが、少しでも手がかりがあるなら俺はそれにすがりたいからな」

 早くも二杯目を飲み終えた香野に、雅も素直に微笑みながら頷いて見せる。

「えぇ……だったら、私の方でも出来るだけ準備をしておきましょう。あいにくなことに、今週は何も予定が入っていないものでして」

「おう、そうしてもらえると助かるぜ。……ま、早いが話はそれだけだ」

 話を終えた香野はカップを置いて立ち上がると、近くに掛けていた軍用のコートを手にとり帰り支度を始めた。




  



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