「あんた何やってるのよ!こんな昼間に一人で飛び出して、自分の立場をわきまえたらどうなの!」
「……分かってるよ。でも、安々と敵を見逃す訳にもいかないだろう?」
そう言いながら彼はなおも戦おうとするが、やはり痛みが残るのかその場に膝をついた。
「ほらやっぱり、あんたは休んでなさい!後はアタシに任せてそこで見てて」
「っ――」
なおも不満が残るのか美好が何かを言おうとしたが、彼は仕方ないといった様子で歯噛みするともう一度腰を下ろした。
昼間には本領を発揮できないという吸血鬼の性質柄、ここは不本意ながらも彼女の考えに従うこととしたのだろう。
「話し合いは終わったのかい?私も早く帰りたいからねぇ……お土産も手に入れたし、そろそろお開きにしないかな」
「何言ってるの。ここではいそうですか、って帰す訳にいかないでしょ。それにアンタ……ただ見学しに来たって訳じゃないわよね?」
「見学?いやいや、本当に見学しに来ただけなんだよ。“私は”ね」
檠與はそう言うと、煙から作った漆黒のダーツのような矢を暮哭に向けて投げつける。
しかし彼女はクルリと半回転すると、尻尾でそれを払い落とし、次いで辺りに巨大な魔法陣を広げ出した。
「本当に嫌な奴ね!少しは頭を冷やしたらどうなの!」
そう暮哭が言うと同時に魔法陣の端々から二つの巨大な水柱が沸き上がり、それらは上空でグルグルと絡み合いながら渦をなしていく。
「水芸・花筏!」
すると彼女の声に合わせたかのようにして水柱が空中でうねり上げ、檠與の元へと急降下を始めた。