言霊使い



「――っ!?」

 檠與がそう言ったのと同時に感じる巨大な衝撃と圧迫感。

 気が付けば美好は体を後方に吹き飛ばされ、壁に強く背中を打ち付けていた。

「い、今のは……!?」

 痛む体を抑えて相手を見るも、当の檠與は先程とは変わらぬ体勢で、まるで何かを放ったような様子も無い。

 檠與は腕を戻すと、何ら変わらぬ調子で歩み寄ってきた。

「これは失敬。少しやりすぎたかな?……そういやまだ自己紹介をしていなかったね……。私は檠與。“言霊使い”で『ゲーテ』の神憑さ」

 彼はそう言って帽子を取ると、うやうやしく、そしてふざけたように――いや、実際ふざけているのだろう。慇懃無礼に一礼して見せる。

「ラグナロクの奴らはみんなこんなな訳?本当めちゃくちゃだよ。君にしろ、この前の奴にしろ」

「あぁ……そういえば似たようなことをこの烏君にも言われたねぇ。まぁ、そんなこともう関係無いんだけどさ。とりあえずは、面倒な用事はさっさと終わらせよう……さぁ、“刺し殺せ”!」

「!」

 そう彼が叫ぶと同時に、床に落ちていた戯遊の祝典のスライドが一人でに持ち上がり、美好の心臓を目掛けて突撃を始める。

 とっさに避けようとしたが、どうも上手く力が入らないらしく思うように体が動かない。しかし彼はどうにか身体を奮い立たせて迫り来る剣を避けようとした――が、時すでに遅し。

 既にそれは眼前まで来ていた。



「美好!」


 すると突然、美好とスライドの間に水で出来た壁が出現し、スライドの突撃の威力を弱め突き落とす。

 カランと音を立てて落ちたそれを拾い上げ、美好は声の方へと振り返った。

「暮哭……!」

 その先では、周りに魔法陣を浮かばせ術を発動していた暮哭が、息を切らせこちらを見据えていた。




  



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