煙に撒く男
「おやおや、これはやけにお早いご到着だねぇ。どこかで監視でもしていたのかい?」
「そっちこそ……まるで僕がここに来るのが分かっていたかのような口振りじゃないか」
息を切らしながら外へ飛び出した美好の前にいたのは、先程と変わらない様子で門前に佇んでいる檠與だった。
彼はニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべ、チラリと美好の後ろを覗き見る。
「分かるも何も、君の元には優秀なレーダーがいるじゃないか。それより良いのかい?仲間を連れてこなくてさ。せっかくのチャンスなんだからちゃんと作戦を立てて……おや?」
そこまで流暢に喋っていた檠與だったが、ふと腹周りに感じた違和感に思わずその場を見やる。
「お前一人ぐらい、僕一人で十分だ!」
『戯遊の祝典』のベルを構えてそう言う美好と自分の腹に空いた穴を見て、彼は自分が撃たれたことを理解した。
「あぁ……これだから最近の若者は。血気盛んにも程があるというものだよ……。まぁ、これぐらいなら先に予想はしてたさ」
「!」
すると檠與がそう言うのと同時に、彼の腹に空いた傷がまるで煙のように塞がっていき、撃たれる前と何ら変わらぬ“完全再生”を遂げた。
彼は肩に担いだ戯宮を担ぎ直すと、卑しい笑顔を向けて美好に右手を差し出した。
そして、紡ぐ。
「――“飛べ”。」
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