映し出された悪意
いつの間に眠っていたのだろう。
美好は一度大きくあくびをすると、そのまま伸びをして寝ぼけ眼の目を擦りながら部屋を後にした。
まだ日が傾いていないというところを見ると、恐らく自分が眠っていたのはほんの一時に過ぎないのであろう。
だが……どうも気分が優れない。
「……あぁ」
――あいつに会ったからか。
眉間に皺を寄せながら一人納得をした美好は、早足に廊下を歩っていく。
しかしその次に角を曲がった時、唐突に目の前に見知った人物が現れ、彼は思わず足を止めた。
「これは……」
「あぁーっ!ユンユンじゃん、久しぶりー!」
「美好……確か我と汝は昨日も会ったような気がするのだが……まぁ良い」
自分よりも一回り小さいその少年――雲(ユン)に向けて彼は指を向けながら叫ぶと、次いで少し不思議そうに首を傾げて、
「でも、どうしてユンユンがこんなところにいるのさ。お出かけ?」
「……我がそう悠々と何の意味も無しに部屋を出るとでも思うたか……。違う、外界で少し不審な動きが見られたものでな……」
雲はそう言うと、手に持った自分の顔ほどの大きさもある水晶――彼が先天性の『ウンクテヒ』の神憑でもある証拠のその大きな“右目”を掲げた。
美好がそれを覗き込むと、白濁色に濁っていた水晶がみるみるうちに透き通っていき、初めはぼんやりと、じきにハッキリと何かを映し出していく。
「これは……!」
オリーブの門前に佇む男。
肩にもう一人の男を担いだその人はニヤリとした卑しい笑みを浮かべると、隣でせわしなく羽ばたく小鳥を手に乗せた。
予期していなかったその光景に、美好は思わず最悪のことを想起して奥歯を歯噛みする。
「ラグナロクの使徒がどうしてここに……!」
彼はそう言うと、まだ水晶を持っている雲を置いてその場を駆け出した。
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