バシリスクとコカトリス



「!それは……!」

 遡琉を抱き起こした香野が声を上げるのと同時に、来夏が目を見開いて彼――正確には遡琉の体から流れ出た血液を凝視する。

 先ほどまで絨毯の一部を赤黒く染め上げていたそれは、今やなぜか繊維を溶かしもくもくとした煙を上げていたのだ。

 来夏は忌々しそうに目を細めると、噛みつくような勢いで百埜へと振り返った。

「これはどういうことだ!お前は『コカトリス』じゃなかったのか!」

「あぁ、そうだよ」

 しかし百埜は平然とした態度でそう言うと、冷たい眼光を放ったままに言った。

「確かに僕は『コカトリス』の神憑だ。だけど、それとはまた別のところで君は一つだけ勘違いをしている」

「だからそれは……!」

「いるんだよ、もう一人。僕と同じ能力を持つ者が」

「っ!」

 彼はそう言い鎌を来夏に向けると、目を大きく見開いて声を上げた。

「君もそろそろ分かっているんだろう?――僕の兄さん、遡琉は僕の魂を半分に分かち合った半身、『バシリスク』の神憑なのさ!」

 そう叫んだ百埜は、その巨大な鎌を振り回すと、来夏の喉笛を掻ききろうと一歩前に踏み出し彼の元へと飛びかかった。

「『バシリスク』は能力者の意思に応じて、見た者を全て石にすることが出来る。例え免れたとしても、体内に巡らされた毒で敵の動きを殺す。僕とは比べ物にならない素晴らしい能力だよ!……まぁ、当人はまだ知らないみたいだし、本当は兄さんをこの戦いに巻き込みたくなくて、ずっと僕が封印をしたフリをしてたんだけど……どうやらここまでみたいだね」

 対する来夏も先ほどのことがあるためか安易には鎌を受け止めることはせずに、横に飛ぶことでそれを躱す。

「はっ、まさに俺様は所詮、兄弟愛に熱い二匹の蛇に睨まれた蛙って訳か。しかしそんなら早い話、俺様の本当の敵はそっちって訳なんだろう……なっ!」

 わずかな百埜の隙をつい来夏は、懐から取り出したナイフを逆手に持つと、跳ねた勢いを利用して遡琉に向けてそれを投擲した。




  



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -