決定的な差
「おい、どういうことだよ!どうしてフェンリルがここにいるんだ!?」
「俺が知るか!ここの管轄は百埜に一任させてあるからな。しかし……まさかあんな大物をかくまっていたとは……」
追っ手が来る中、香野と遡琉は階段を駆け上がり、地下から地上へと移動をしていた。
「おいおい逃げるつもりかぁ?ちょっとは遊ぼうぜ、この来夏(ライカ)様とよぉ」
迫り来る来夏の声が、壁を浸透しながら反響する。二人が走っているのに対し、彼はまるで悠々と歩っているかのように涼やかで楽しそうな声音で迫って来た。
そして二人が廊下にたどり着いた時、辺りは嫌な静けさを保っていた。
「よぉ、わざわざ待っててくれたのか。しっかし騎士団の隊長クラスったぁ、これはちっとは楽しめそうじゃねぇか。なぁ?」
のっそりと地下通路から現れた来夏は、あくび混じりにそう言うと、すぐに辺りを見回して、
「しかし、あいつはいねぇのか?奴がそう安々と俺を見逃す訳がねぇ」
「あいつ……?」
「なんだ、お前らも知ってるだろう。俺様を石にしてここにぶっ込んだ張本人、『コカトリス』の野郎だよ」
そう呟いた来夏の目が、忌々しげに細められる。
「コカトリス……百埜のことか」
「百埜……?あぁ、今はそんな名前なのか。やっぱり俺の眠ってた期間はちょっと長かったようだな」
来夏はニヤリと笑って見せると、同時に腰から一本の巨大な“鋸”を取り出す。
それは彼の身長の半分以上は優にあり、大の大人が振り回すことすら難しく感じられるほどに重厚で、鈍い輝きを放っていた。
「っ!どっからそんなもん……」
「あぁ?聞いてなかったのか?ラグナロクのフェンリルは、一人にして千人の兵をも圧倒するまさに兵器。あげくの果てには『人間武器庫』なんて呼ばれやがる。ま、俺自信と一緒に石になってたおかげで剣も弾薬も銃も、ぜーんぶあの頃のままだったのが幸いしたな」
彼はそう言うと同時に、空気を切るようにして鋸を振り上げた。
「――ぐっ!?」
突如として振り下ろされた鋸を、香野は間一髪で腰から取り出した二丁の拳銃で受け止めたが、その衝撃で腕全体に痺れが走った。
だが、受け止めたのも束の間。
刃が食い込んだ部分がギチギチと悲鳴を上げ出したのだ。
――このままじゃあ……!
「はぁぁぁ!」
「!」
香野の防御が限界を向かえようとしたその時、先程まで彼の後ろにいた遡琉が来夏の後ろに回り込み、その首筋目掛けて白刃を振り下ろした。
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