フェンリル
「なぁ、遡琉……どうして牢屋の鍵が開いてるんだ?」
「なに?」
香野の疑問に、先程まで怒っていた遡琉も思わず前方を見やる。
彼の言う通り、牢屋の中には誰もおらず、その扉だけがこちらに開け放されている。
「どういうことだ、これは……」
「どういうことって、こういうことだよ。ガキ共」
「っ!?」
突然後ろから掛けられた男の声に、香野と遡琉は慌てて振り返る。
そこにいたのは、金色の瞳をした背の高い男だった。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか、蜘蛛の坊主。遠路遥々、わざわざ俺様に会いに来たってか?」
「フェンリル……!」
ヘラヘラと二人に笑いかけるその男――ラグナロクのボス、『フェンリル』に、香野は驚き息を飲んで睨み返す。
「懐かしいねぇ。前に会ったのはいつだったかなぁ……何百年も前かもしれねぇし、もしかしたら昨日かもしれねぇ。……まぁ、それほどまでに俺の時間は止まったままだったっつーことだろうな。――で」
懐かしそうに目を細めて言うフェンリルは、突如としてその目にギンとした閃光の光を灯らせる。
「まぁしっかし……こう何年も“石”になってお預け食らってたんだ。ようするに、さすがの俺様も空腹って訳よ」
鋭い眼光に睨まれ、全身が粟立つかのように感じる。いや、実際にそうななのだろう。
目の前にいるこの“怪物”はそれほどまでに、今まで感じたことの無いような狂気や殺気を放っていたのだから。
「さぁ」
「楽しいディナーの時間としようぜ」
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