隠されていた扉



 切羽詰まった表情で廊下を走り抜けていく遡琉に、香野はヘトヘトになりながらもどうにかその後ろを同じ速度で追いかけていた。

「おい、どこに行くつもりだよ!まさかお前、何か分かったのか!?」

「うるさい、大体どうして貴様がついてくるんだ!部外者は大人しく帰ってろ!」

「ぶ……!?あ、あのなぁ、俺はお前が心配で仕方無く……」

「着いたぞ」

 香野が反論を試みたまさにその時、遡琉が廊下の途中にある通路の前で足を止める。

 その通路は他とは違い、まるで先程まで“隠してあった”というかのようにそこに存在しており、中を覗くと地下へと通じる階段が存在している。

「隠し通路……?」

「あぁ、本来この通路は、普段は壁と同じようにカモフラージュしてある。そのために扉があること自体に気が付くことはそうそう無いはずだ。だがしかし……」

「誰かが存在に気付いた……っつーことか。いや、それとも元から知っていたのか……。だけどよ、そんなもの一体誰が何のために……?」

 香野が不思議そうに、遡琉の肩越しにその通路を覗き込む。

 中はやけに暗く、ジメジメとしていてカビ臭い。所々蜘蛛の巣が見えることから、長いことここに人が訪れていないことが分かる。

 遡琉は香野の疑問に対し、苦い顔をしながら舌打ち混じりに説明を始めた。

「牢屋だよ。この宮殿の地下にいる、ある罪人を罰するためのな。それだけの為に造られた」

「牢屋……罪人……?それって……」

「あぁ、もう!さっきから質問ばっかりしてきやがって!そんなに気になるなら自分の目で見ればいいだろう!」

 香野の質問攻めに激高した遡琉は、彼の襟首を無造作に掴み取ると、そのまま地下へと歩き出す。

「ちょ、危ないから離……あぁっ!」

「うぉっ!?」

 バランスを崩した香野が階段につまずくのと同時に、それに巻き込まれた遡琉が階段を転がり落ちていく。

 そして、二人がそのまま最下層まで落ちた時、

「貴様は一体どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ……!というか重い!早くどけ!」

「お前が引っ張るのが悪いんだろ!大体敵がどこにいるかも分からないんだから、もう少し慎重にだな……あ?」

「どうした」

 埃臭い部屋に備え付けられた一つの牢屋。

 遡琉の上に落下する形となった香野は、ふとその牢屋の方に目をやった。




  



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