テレパシー
勝手に部屋を飛び出した香野に、珀憂は思わず溜め息をついた。
「香野まで……。全く、どうしてアイツはいつもいつも……こうなったら私達も行くぞ、雅。……雅?」
背後からの返事が無いことに、珀憂は違和感を覚え振り返る。
呼ばれていることにも気付かないのか、当の雅は頭の耳をピンと立て、斜め上の方向をジッと見つめていた。
「おい、雅……雅!」
「……あ、あぁ、どうしましたか?珀憂」
「どうしたって……香野が遡琉王子を追い掛けて飛び出して行った。私達も後を追うぞ」
「!そうですか……」
珀憂の言葉に雅は浮かない顔でそう言うと、すまなそうに目を細めて、
「私も行きたいところですが……どうやらうちのペットがバカしたようで。ちょっと行かねばならないみたいなんですよねぇ……」
「ペットって……もしかして戯宮か?それはどういう……」
「どうやら、ラグナロクと接触したようです」
「!なん……だと……!?」
驚いたような珀憂の反応に、雅は諦めたように目を細めた。
「私と彼は一心同体。視覚、聴覚、嗅覚、大体のことはどこにいても自分の意思で共有しあうことが出来ます。しかし……詳しいことは分かりませんが、先程その交信が突然途絶えました。……ラグナロクとの戦闘を境に」
神妙な面持ちでそう言う雅に、珀憂は「そうか」と呟く。
「……分かった、詳しいことはまた後でいい。そんな状況にあるのならこちらは私達でなんとかする。だから雅は戯宮を……」
「すみません。……香野のこと……頼みましたよ」
雅は一回だけ頷くと、先を急ぐようにして部屋を去っていく。
「ねぇ、騎士団長さん」
それを見送っていた珀憂に、背後から百埜が声を掛けてくる。
珀憂が振り返ると、彼は既に意識を失った執事を背負いながら、
「僕は彼を安全な所に運んだ後に、宮殿内の全ての人間を外に避難させる。恐らく、これは普通の人間では対処出来ないからね……」
「それは、どういう……」
百埜はゆっくりと立ち上がると、困ったような、しかしどこか楽しんでいるような曖昧な笑みを浮かべて言った。
「あぁ、そういえばさっき言い損ねたんだったっけ。……この城の地下に隠された秘密のこと……」
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