奪われた鍵



 兵士からの伝言を聞いて玉座の間を飛び出した、遡琉、百埜、そして香野達一行は、この広い宮殿の中の中心でもある広間へと集まっていた。

 ソファや暖炉が立ち並ぶその部屋の造りは、他の部屋のきらびやかな印象とは反対の落ち着いた印象を持っており、どこか甘い香の香りのする空間となっている。

 しかし、今その空間に漂っているのはそんな甘い香りでは無く、まだ新しい鮮血の臭い。

 部屋に駆け込んだ彼らは目の前の光景に、入るや否や顔をしかめては鼻を塞ぐ。

「あれは……!」

 珀憂がそう言うと、全員の視線が奥の方の暖炉脇に倒れる一つの人影へと集まった。

「どういうことだ……!?」

 驚いたように目を見開いた遡琉は、その倒れていた人物――先程玉座の間を出ていった執事に駆け寄ると、その身を抱き上げ声を掛ける。

 彼の背には斬られたような傷があり、それは深く抉られているようにも見えたが、致命傷とまではいかなかったのか、辛うじて息はあるようだった。

「おい、しっかりしろ!一体何があったんだ!」

 遡琉の声に、執事は薄く目を開いた。

「……遡琉……様……。すみません、何者かに……地下室の鍵を……」

「なに……!?」


 未だ重症ながらに意識を保っていた執事の言葉に、遡琉は動揺を隠さないまま、彼のベルトやポケットを確認する。

「ちっ……宮殿の鍵を丸ごと持っていかれたか。しかし誰が、何のために……まさか……!」

 何かに気付いたらしく、彼は百埜に執事の身を託すと、今来た扉の方へと脱兎のごとく駆け出して行く。

「兄さん!」

「あ、おい、待てって!」

 部屋を出ていった遡琉の後を追うように、香野も続けて部屋を飛び出した。




  



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