喜びに舞い上がる
「おい百埜!さっきこっちに怪しい奴が来なかった……あ」
「お前はさっきの……」
香野達が振り返った時、そこに現れたのは先ほど表で香野と争っていた男――遡琉だった。
彼は三人を見つけると、思わずそちらに指を指して、
「貴様!さっきは突然逃げたかと思えば、図々しくも我が宮殿の中に居座るとは……!」
「うっせー!別にあれは逃げたんじゃなくて、雅達に連れられて仕方なく……って、ん?お前、今我が宮殿って……」
「兄さん!」
香野が首を傾げたその時、突然玉座に座っていた百埜が叫んだかと思うと、彼は階段を駆け下り、そのまま遡琉の元へと飛び付いた。
「百埜……」
「わぁ、兄さん、本当に久しぶりだね!今回はどこまで遠征に行ってたの?隊のみんなは帰ってきたのに、兄さんだけいつまでたっても帰ってこないから、僕ったら考えすぎて思わずその中の一人を殺……いや、ごめん、なんでもない、でもとりあえず、おかえり兄さん!」
目をキラキラと輝かせながら早口で喜びを表す百埜に、遡琉は今までとは違い優しく微笑みを返してやる。
そして先ほどの百埜の“兄さん”という言葉――それはすなわち、彼は百埜との血の繋がった兄と言うことになり、同じこの国の王であることを意味していた。
「お前は相変わらずだな。たかが一週間じゃないか」
「たかが一週間でも、兄さんのいない時間は僕にとってはそれはもう永遠のような……!」
「分かった、分かったから一回落ち着け」
そろそろ飛び回るのではないか、と疑うくらいに喜ぶ彼になだめるようにそう言うと、百埜は半ば渋々といったように兄から離れた。
すると遡琉はそれとは打って変わって今度は蔑むような目で、
「で、結局貴様らはなんなんだ……?」
と言って香野達の方に一歩踏み出す。
「あ、兄さん、この人たちはグレイプニル騎士団の人たちだよ。ほら、前に手紙が来てたでしょ、兄さんも一緒に読んだじゃないか」
「……あぁ、なんかあったな。そんなの」
曖昧に呟く遡琉に対し、続いて雅が問い掛ける。
「しかし遡琉さん、先程怪しい奴がこちらに来なかったかと聞きましたが……もしや何かあったのですか?」
「ん?あ、あぁ、そうだった。それが、さっきお前らが逃げた後に黒髪の男がやってきて……」
その時だった。
閉められていたその扉が、先ほど遡琉が開けた時よりも一段と強く開かれ、そこから息を切らした兵士が中へと飛び込んできた。
「そ、遡琉様!百埜様!」
「騒々しい、何事だ!」
遡琉の怒声に、兵士は改めて姿勢を正し敬礼をすると、迷ったように、しかしそれでも声を張り上げながら、
「そ、それが、先ほど広間の方で……」
「……っ!」
ことの次第を聞いた遡琉と百埜は弾かれたかのようにその場を駆け出すと、広間の方へと曲がっていった。
そして何事かと顔を見合わせた香野達も、それに続くことにし、その場を後にしたのだった。
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