滲み出た元凶
戯宮の元から放たれたそれらは直接茉淦に当たりはしなかったものの、すれすれの屋根の上に深く爪痕を残した。
茉淦は一瞬ビクリとはしたものの、すぐに今度は上を見上げながら、
「……はははっ、檠與ー、やっぱりこの子、私と遊ぶのは嫌なんだってぇ。……でも気に入ったわ。この際、キズモノでもいいからこの子を連れて帰ることにする!」
「連れて帰るって、一体君はさっきから何の話をして……っ!?」
虚無の空間へ向かって不明瞭なことを叫ぶ少女に対して、戯宮は疑問の声を上げようとしたが、その刹那、彼の左肩に鋭い激痛が走った。
突然の衝撃と痛みに顔をしかめた戯宮は、思ったよりも深く抉られた左肩を押さえながら後方に振り返る。
「おやおや茉淦、こんな礼儀もなっていないような鳥のどこが気に入ったと言うんだい?本当に、君の思考回路には毎回理解に苦しむよ」
薄暗いもやの中からジワリ、と滲み出てきた檠與は、今しがた戯宮を切り裂いたばかりのその漆黒のナイフについた血をピシャリとなぎはらうと、ニヤリと口許を緩ませた。
「ったく……礼儀がなってないのはどっちですかぁ。おかげでほら、自慢のコートがこんなにも汚れて……」
「んー、元からそんなだったんじゃないかなぁ、君のそれ」
檠與はそう言うと、手にしていたナイフを煙に還し、今度は新しく拳銃の形をかたどった物体を造り出す。
間もなく檠與はそれを躊躇いもなく戯宮に向けて放つが、彼は紙一重それをで銃剣で弾き返した。
「うちの可愛いお嬢様が欲しがってんだ。大人しく付いてくるってんなら、これ以上怪我しなくて済むけどねぇ」
「ハッ、そんなのごめんですよ。これ以上誰かに飼い慣らされるなんて」
戯宮は鼻で笑って見せると、もう一度、今度は檠與に向かって照準を合わせた。
「さぁ、来なさい、寝起きの私は今、最高に機嫌が悪いんですからねぇ」
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