銀と黒



「ねぇねぇお兄さん、私と一緒に遊びましょう?」

 気持ちの良い日差しの中、まどろんでいた所に射された一筋の影。

 寝ぼけ眼の戯宮が目を覚ますと、そこでは大きな赤い日傘をさした少女がこちらを覗き込んでいた。

「……ガキはガキらしく、おうちに帰ってお人形遊びでもしてなさい……」

 戯宮はゴロン、と寝返りを打つと、そのままもう一度眠りの世界へ旅立とうと意識を手放していく。

 そこが屋根の上ということもあってか、彼はあまり大きな寝返りは打たず、それは本当に、ただ彼女から目を背けようとしただけの小さな動き。

「悲しいなぁ〜、せっかく遊んであげようと思ったのに。同じ鳥同士として、ね?」

「……ラグナロクからの刺客ですか」

 その言葉に反応した戯宮は帽子を被りながら面倒臭そうに起き上がると、改めて彼女の方を見やる。

「あれ、やっぱりバレちゃった?まぁ、しょうがないよね〜、私、檠與と違って嘘つくの下手だし」

「本当ですよぉ。しかし人の安眠を妨害するだなんて、さすが、躾がなってませんねぇ」

 その戯宮の小馬鹿にしたような物言いが癪に触ったのか、茉淦はあからさまに頬を膨らませて見せる。

「なによ、全っ然可愛くない!せっかく私のオモチャにしてあげようと思ったのに!」

「はぁ……?」

 屋根の上で地団駄を踏む茉淦に、戯宮は呆れたように両腕を広げる。

「全く、これだから最近のガキは。何事も自分中心に世界が廻っているとでも思ってるんですかねぇ……。しかし……」

 戯宮はそこまで言うと、おもむろにボロボロになったコートの裾から鈍色の輝きを帯びた愛用の銃剣を取り出す。

 彼は得物の切っ先を茉淦に合わせると、

「これはこれで、雅くん達への良い土産が出来るというものです。……さぁ、選びなさい。ここで大人しく私に付いてくるか、それともこのままここで錆となるかを」

 戦闘体勢に入った戯宮に対し、茉淦はなおも楽しそうにふふっ、と笑う。

「お兄さん、ちゃんと私の話聞いてた?あなたは今から、私と遊ぶの。これは決定事項なのよ。あーゆーおーけぃ?」

「……むかつくガキですねぇ」

 彼がそう言うと同時に、辺りに二発の銃声が響き渡った。




  



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