「宮殿の前でうろつくとは怪しい輩め……名を名乗れ!」
真っ向からの喧嘩越しな怒声に、香野は一瞬怖じ気づいたものの、すぐに一歩前に踏み出し負けじと声を上げて見せた。
「あぁ?誰だお前、ずいぶん偉そうな口叩いてるじゃねぇか。ここの奴か」
「……っ、名を名乗れと言ったのが分からないのか!」
青年はブンッ、と剣を振ると、次いで香野の胸ぐらを掴みながら、
「もしや、名乗りたくないとでもいうのか……?それなら今ここで、この遡琉(ソノル)の白刃の餌食にしてくれよう。覚悟しろ!」
「あぁ!?んだと!上等じゃねぇか、喜んで返り討ちにしてやるよ」
自らも懐から銃を抜く香野に、雅と珀憂は思わず息を飲んだものの、すぐにそのまま溜め息を吐き出す。
「全く、どうしてすぐにこうなるんでしょう……」
「あいつが喧嘩っ早いのはいつものことだろう。ほら雅、ことが大きくならないうちに止めに行くぞ」
「……えぇ、そうですね」
二人はそう言うと、今にも飛びかかりそうな勢いの香野と遡琉の元へと仲裁に入ったのだった。