心配性の弟
「茉淦の様子が……?」
「うん、最近どこかボーッとしてて、僕が話しかけても曖昧な返事しか帰ってこないときがあるんだ」
獣のような両手の開閉を繰り返しながら喋る杞微に、纉抖は無言で隣に腰掛ける。
「最初は疲れてるのかと思ってたんだけど、この二日間は特に部屋にこもりっぱなしで……さすがに今日になって心配になってきて、覗いてみたんだ。そしたら……」
「既にいなかった、ということか」
「……うん」
シュンとしたようにうつむく杞微に、纉抖はなるほど、と相づちを打つと、そのまま安心しろ、と言って彼の頭に手を置く。
「いないとは言うものの、今は檠與が一緒にいることだし、問題は無いだろう。私も彼の腕には一役買っていることだし、心配することはない」
そう言い纉抖は立ち上がると、彼は杞微に「じゃあ、私はもう行くからな」と声を掛けて歩き出そうとする。
「え、兄さん、どこかに行くの?」
後ろから掛けられる杞微の疑問の声に、彼は途中でピタリと立ち止まると、ゆっくりとこちらに振り返る。
「あぁ、少し用事が出来たものでな。しばらく屋敷を空けさせてもらう。焔華には言ってあるから心配しなくていい」
纉抖は杞微にそう告げると、そのまま急ぐ様子も無く広場を去っていった。
後に残された杞微はふと空を見上げると、既にここには居ぬ少女と兄に思いを寄せ、大きく溜め息をついた。
「茉淦、兄さん、早く帰ってきてよね……」
彼の消え入るようなその小さな呟きは、広場を吹き抜ける風によって、すぐに聞こえなくなった。
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