つかの間の楽しみ



 元々国土面積が広い方ではないノルン王国は、その国土に似合わない広大な自然と安定した政治・軍事力により国民からも高い指示を得ている中小国である。

 香野、雅、珀憂の三人は、三日にも及ぶ長い旅を終えて猫馬車を降りると、ようやくその国内に立ち入ることが出来るようになった。

 まだ新しい王が即位して間もないためか、国の中は未だお祭りムードで、道端にはたくさんの露店が立ち並んでいる。

「ほら、見ろよ珀憂!見たことないような食いもんがいっぱいあるぜ!」

「こら、香野!あまり一人で出歩くんじゃ……って、全く、あいつは何をしに来たと思っているんだ」

 町の熱気に流された香野が露店を覗き回っている中、珀憂はやれやれといった調子で目頭を押さえる。

「まぁ、これから込み入った話をする訳ですし、それにこんな大きなお祭りも久しぶりです。珀憂も、今のうちに楽しんでおいても良いんじゃないですか?」

「確かにそれはそうなんだが、しかしあれはいくらなんでも……」

「おーい、雅ー!珀憂ー!」

 すると、突然人混みの中から香野の声が聞こえ、二人が思わずそちらに振り返ると、彼は両腕に抱えきれないほどの食料を抱えて帰ってきた。

「見ろよこれ!たくさんオマケして貰ったんだぜ!」

 彼はほらっ、と手にしていた串焼きを二人に渡すと、あとこれは珀憂に、と何枚かの紙切れを差し出す。

「これは……」

「なんかよく分かんねーけど、店に行ったら貰ったんだよ」

 もぎゅもぎゅと巨大な綿菓子を食べながら言う香野に、珀憂はたくさんの“領収書”の束を見ながら、

「これ……経費から落ちるのか……?」

「ほら、ちゃんと美好にも土産買ってやったんだよ。ここの食いもん、中々美味いからな!」

 目を輝かせながら言う香野に、珀憂は今度こそ頭を抱えることとなったのだった。




  



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