手土産



 女は竜のような尻尾をブン、と振ると、続けて長い髪をかき上げながら、

「それはこっちのセリフよ。女装癖のある男なんて、今時流行らないわよ?それに、私の名前は暮哭(クレナ)。なんなら特別に暮哭お姐様って呼ばせてあげても良いけど?」

「ご丁寧にどーも。でも、残念ながら僕、そういう冗談に付き合うつもりは無いからさ」

 そう言って美好は、悪態をつきながらも霧散させた体を一ヶ所に集めていく。

「ふーん、可愛くない子」

 暮哭はドサリとベッドに腰かけると、ゴソゴソと紙袋から何かを取り出し、それを実体化した美好に向かってヒョイと投げる。

「これは……?」

 箱に入って中身の分からないそれに、美好は疑問の声をもらした。

「なに、アンタ好きでしょ、葡萄酒。珀憂からアンタが帰ってきたって聞いて、わざわざ買ってきてあげたんだから」

「……あっそ。一応貰っといてあげるよ」

 素直に喜ばない美好に、暮哭は「本当に可愛くない子ね」とぼやくと、続けて自分の橙色の髪をクルクルと弄び始める。

 そして、しばらくして彼女は大きく溜め息を吐き出すとおもむろに、

「そういえば、珀憂達はどこ?さっきから姿が見えないんだけど」

 そう聞く暮哭に、美好は不快そうに眉をひそめながらもとりあえず答えた。

「珀憂達なら、ノルンの国に行ったよ」

「ノルンの国?……あぁ、そういえばなんか手紙に書いてあったわね。……てか、アンタは行かないわけ?」

 暮哭のその一言に、美好は思わずピクリと反応する。

「……暮哭には関係ないでしょ。ほら、もうそろそろ出てってよ。こう見えて僕は忙しいんだから」

 わざとらしく追い払うような仕草を見せる美好に、暮哭は溜め息をつきながら立ち上がる。

「全く、アンタもそろそろアタシに懐いたらどうなの?」

 最後に彼女はそれだけを呟くと、そのまま美好の部屋を後にした。

 後に残された美好はハッと自嘲気味に笑うと、彼は先と同じようにベッドに仰向けに倒れ込む。

「暮哭、それは無理な話だよ。なんたって、僕は……」

 そして彼は静かに目を閉じ、まどろみの中に身を投じる。

 ――そう、僕はなんたって……



「君のことが、大嫌いなんだからね」




  



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テーマ「人外ファンタジー」
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